永正11年(1514年)

第三百六十三話 スキー遊び

鍋倉城 阿曽沼遠野太郎親郷


 恒例の正月の宴会の時に沢内が木の板で作ったスキーを持参して来ていたので、城下の空き地に雪山を築いてスキー大会が始まる。


 雪沓を縄でスキーに固定して滑るのだが、まだストックが無くバランスが取りにくい。


「おっとっと……」


「殿様~こうすれば良いのよ!」


 雪がすいすい滑っていく。以前も思ったけど前世の記憶はあっても運動面まで覚えているものじゃ無いと思うんだがなぁ。


「何度か滑れば感が掴めるものよ」


「いやぁ雪姫はすごいな。殿もなかなか早いと思うんだが雪姫は飛び抜けているな」


 守儀叔父上が感嘆する。やがて人だかりが出来てきた。


「やはり儂よりうまいですな……」


 スキーの研究をさせていた沢内も雪の滑りに舌をまく。


「雪様、儂等に教えて頂けませぬか」


「いいわよ!じゃあみんなでやりましょう!」


 そう言って雪の即席スキー教室がはじまる。始まったのだが、なんというか子供に較べて大人達の動きが硬いように見える。


「守綱叔父上、そのようなへっぴり腰では雪はおろか私にも負けますよ」


「なにお!っおっお!うおぁ!」


 そう言って転んでいるがちょっと危ないな。俺は前回転び方とかも含めて雪から指導して貰ってたけど、皆は知らないもんな。


「なあ雪」


「どうしたの?」


「叔父上がまた転んでるんだけどさ」


「あぁ、あれは危ないわね」


 改めて周囲を見てみるといろんなところで転んでいて、子供から大人まで頭から突っ込んでるのもちらほらいる。


「はいはい!そんな転び方してたら良くないわ。先に転び方っていうか受け身からやりましょう」


 なんやかんやで新春とはいえ寒い日が続く遠野で汗をかきかきスキーを楽しむ。


「いやあこの足に履く橇はなかなか便利だな」


「かんじきはあれで便利ではあるがこれはこれでいいのぅ」


 守儀叔父上と父上には好感触だ。


「それで殿、この足橇はなにに使うのでしょうか」


 小国彦助郷忠が聞いてくる。


「勿論雪の時期に移動するための道具だが。雪で馬を使えなくともこいつで攻め入るとか出来るであろう」


「え……、もしかして冬も戦をするつもりなのですか?」


「農作業があんまりないからな」


 牧場が増えてきたからそっちの方は飼い葉の管理だとか大変そうだけど、田畑は雪の下だから藁を編んだり菰を編んだりくらいしか冬の仕事が無い。めっちゃ大事な仕事ではあるのだけども。


「それに他の領に攻め込むのにうってつけであろう」


「出羽はこの遠野より雪が多いと聞きます。そんな中を攻めるのは難しいんではないかと」


「まあな。しかし攻め入ることが出来れば向こうは全く油断しているわけだから此方の損害が少なくてすむだろう。そのために沢内に研究させている」


「しかしなかなか難しいですな。人は攻め入ることが出来ましても得物をつかってとなりますとまた違った難しさが御座いますし、万全にものを運ぶというのもなかなか難しゅう御座いますし、何より寒さに耐える武具を作るところからになりますので今以上はなかなか難しいかと」


 羊毛はもちろん牛革もまだまだ生産量が少ないからとても兵全員分を用意など出来ないし、確か必要なカロリーも普段の三倍だか四倍だか必要だったはずなので脂肪の多い食品が少ない今のところは八戸を攻めたときのように雪解け直前に奇襲的攻撃をするとかかな。


「そうか、だがまあ移動の道具としては便利だし、蝦夷や蝦夷より寒いところに行く際には必要になるだろうから、引き続き研究を頼む」


「はっ。承知いたしました」


「殿、蝦夷より北とは?もっと北にも土地があるというのですか?」


「彦助、興味があるか?蝦夷のものに聞くところチュプカウンクルという多くの島が連なる土地があるそうだ。チュプカはわかりにくいので千島と呼ぼうと思っておるがな」


「千島ですか、そこはより寒いのでしょう?」


「ああ、冬になると海が凍ってしまうそうだからな」


 正確には流氷だけど凍ると言った方がわかりやすいだろう。


「う、海が凍るのですか!?」


「そうらしいぞ」


 おれも流氷そのものは前世でも見に行けてなかったからなあ。


「しかもその千島の先には勘察加というこれまた広い土地があるそうだ」


「なんと!しかしそれだけ寒いと人など住んでおらぬのでは無いですか?」


 これは当然の疑問だな。


「そう思うのだがな、魚がよく獲れるのと火の山が多くあって湯がそこここから湧き出るお陰で住んでいる者がおるそうだ」


 千島列島からカムチャッカに駆けて有数の火山地帯で温泉が結構あるんだよね。それに火山があるお陰で金の小規模な鉱床がいくつかあるし、何より昆布の森と言われるほどの海洋資源は放っておく手は無い。ラッコやアザラシの乱獲は防がなきゃいけないけど貴重な防寒具になるから、ある程度は手に入れたい。


「そのような土地でも人は居るものなのですな……行ってみたいとまでは思いませぬが」


 まあそんな寒いところに好き好んで行きたいという物好きはそう居ないだろうけど、北洋権益はなるべく早期に押さえたいからいずれ送り込みたいな。


「まあ何はともあれ、だいぶ滑ったから城に戻るか」


 朝からずっと滑っていたので俺も雪も他の皆も筋肉痛で苦しむのであった。

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