第三百六十二話 錬金術師との出会い
鍋倉城 阿曽沼遠野太郎親郷
秋も深まり山には雪が積もり始めたある非、一風変わった二人が遠野を訪ねてきた。
「貴様等が不思議な術を識るという羅坊(らぼう)と庵治得(あじえ)か」
親子だという。坊主と言っても総髪なので普通のそのあたりにいるおっさんとその子供にしか見えないな。
「明の商人から教えて貰ったのですが、南蛮では鉄や銅や鉛を金銀に変える技法があると」
「それを其方等は使えると」
「はい。この羅坊は明に行き、その術を会得してきております。秘技でありご覧に入れるわけには行きませぬが必ずや阿曽沼様のお役に立てるかと」
錬金術か。東洋では煉丹術だったか。日本では金銀が比較的簡単に手に入るからあんまり価値はないんだよな。しかし明で西洋の錬金術とかやっていたのか?まああの国はなんでもありだろうから、そういう事があってもおかしくはないか。こいつらが嘘つきでなければだが。
「ふむ……しかしそのような技があるというならどうして京でやらん」
「京でそのようなことをすればどこから矢が飛んでくるか分かりませぬ故」
「なるほど、確かに京は乱れておるからそういうこともあろう。しかしな、金や銀なら山を掘れば出てくるであるが」
そんな銅も田老鉱山の開発が順調に行けばしばらくは困ることもないだろうし、小坂鉱山も折を見て開発すれば金銀銅鉛も確保できる。なので錬金術そのものは興味ないし重要度も低いんだが。
「ふむ……まあいい。面白そうだしな」
「では!」
「まず俺の依頼をこなしてからだがな」
転生者では無いようだけど化学系の人間ほしかったのでちょうどいい。明にまで行った者がどこの家や商家にも囲われずこんなところまで流れてくるはずがないので、まず詐欺かできると思いこんでいるのかどちらかだろうがな。
「金銀銅は山を掘れば如何様にもなるのでそんなに急いではおらぬ。それよりも真鍮のようなものが欲しいのだ」
「真鍮……でございますか」
「作れるか?」
「お時間をいただければ必ずや」
おや、意外と自信があるような口ぶりだな。それに真鍮という物を知っているのだな。少しばかり期待できるかもしれないな。
「期待して居るぞ?出来たならば約束通り召し抱えてやろう」
「はは!それと、我が不肖の息子を遠野の学校とやらに入れるのは能いますでしょうか」
「それは問題ない」
そう言うと、羅坊と庵治得が下がっていく。
「なあ太郎、あれはどう見ても詐話師の類ではないか、なぜ抱えようとする」
「大殿様の言う通りよ。どう見ても怪しいじゃない」
父上と雪から突っ込みが入る。
「まぁまぁ俺も多分詐話師の類いだろうとは思いますが、真鍮を作れるならそれだけでも金銀を得るに値する成果で御座います」
「たしかに真鍮が手に入るとなれば金銀に類する価値があろう。しかしそれを得て如何する?仏でも作るつもりか?」
「御仏を作るのも良いでしょうが、鉄よりもさびにくいので船に使いたいのだそうです」
十勝守から真鍮をどうにか手に入れて欲しいと頼まれてたんだよな。さびやすいところは真鍮で作るといいとかなんとか。一郎からもより良いぜんまいを作るためにさびにくい金属が欲しいとか言われていたし。
「それと西国では法螺貝を使っておりますが、当家では法螺貝が手に入りませんので、真鍮で笛を作ろうかと」
数もそんなに必要ないし買ってきたらいいんだろうけど、軍隊と言えばラッパだしな。ラッパといえば金ぴかだけどあれは真鍮製だそうだし真鍮ができればなんとかならないかな。
それと音楽には詳しくないから吹き方とかはわからないけど、多分法螺貝吹ければ吹けるんじゃ無いかな。
「真鍮で笛か……想像もつかぬが、まあ貴様なりに考えがあってということなら儂はとやかく言わん」
そう言って父上が出て行く。
「でも本当に真鍮ができたらどうするの?」
「どうもしないさ。量産して船に使うもよし、時計に使うもよし、楽器を作るもよし、それ以外にも鉄では不足する部分にも使えるだろうし、黄銅で銭を作ったっていいんだし。もし金銀を作るというならそれはそれでやらせておいてもいいさ」
「えぇ……」
「錬金術は化学の蕾なんだ。ここで排除したら冶金含めて化学の進歩が遅れてしまいかねないんだ」
「そりゃあそうかもしれないけどさ」
「まあ真鍮が作れないってんなら作れるまで頑張って貰うつもりだし、それにどうにも名前が気になってね」
「え?羅坊がなにか?」
「息子が庵治得だろ?」
「あ、あぁ!そういうこと?ちょっと変な名前と思ったけど」
ちょっとどころではなく変な名前だと思うのだがな。近代科学の父とも言われる御仁、とはいかないだろうけど親子二代で化学の基礎が出来ればいいな。もちろん別の者がいろいろ考えてくれて試行錯誤してくれてもいいんだけどね。
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