第三百六十一話 警察が出来ます

鍋倉城 阿曽沼遠野太郎親郷


「そうか、死んだか」


「はっ、これが父上の遺髪でございます」


 髪束を見せてくるが生きていても切ってこれるからこれだけではなんともな。一応誰か貼り付けて動向を監視すれば自ずと分かろう。


「死ねば皆仏、大事に祀ってやってくれ。ご苦労であったが、今後はどうする?」


「厚かましいお願いであるとは承知しておりますが、能うなら阿曽沼様の下で働きたく」


「相わかった。では小友を助けて蝦夷を取り込むよう働いてくれ」


 もし蠣崎光広が生きているのであれば何らかの動きもあるだろう。


 しかし十勝は史実のような収奪がないからか、今のところ緩やかに統合が進んできている。今年は遂に大津に学校の建設が完了し、年が明ければ学校教育が始められそうだ。


 一方で渡島はこれまで下国や蠣崎等と争ってきた歴史があるからか、なかなか当家になびく者が少ない。しかし我らが燻製肉やらを食い、節目には清酒やワインにビールを飲んでいるところを見、まだごく一部でしかないがだるまストーブを見て興味を持つ者が増えては来ているのだそうだ。狙われて攻め込まれる可能性もあるので気は抜けないけどな。


「承知いたしました」


 さて軍の強化も必要だが、大きく膨れ上がった領内の治安維持も考えねばなるまい。領内が荒れているのに外征などとてもできんのでそろそろ警察を作るか。

 

「最近戦が続いたからか、人が増えたからか、遠野やそれ以外でも火付けなり押し込みなどが起きてきている。以前はなかったと思うので哀しいことではあるが、これに対処せねばならぬ」


「弾正台か」


 父上がつぶやく。


「そうですね。しかし弾正台も検非違使も既に有名無実になって久しいですし、そもそもあれは京での役職です。守護や地頭もそれに類するものではありますが陸奥や出羽にはそもそも守護が居りませぬ」


「南部や安東も我らが倒してしまったからのぅ」


「殿、一つよろしいでしょうか」


 袰綿勘次郎郷治が手を上げて発言を求めてくる。


「勘次郎どうした」


「寺社に逃げられた際はどうすればよいでしょうか」


 守護使不入な。


「できれば寺社といえど手を入れたいのだがそんなことをすれば大騒ぎになりかねないからな」


「今は協力を願うくらいしか出来ぬだろうな」


 父上が相づちをうつ。


「致し方有りませんね」


 余り治外法権を認めたくないけど、まだ寺社勢力と戦えるかと言われるとどうだろうな。戦えなくはないだろうけど、せめて信長くらいの圧倒的国力を持つまでは穏便に行きたいね。


「さてその弾正台に変わる役職ですが、警保局という名前はどうかと」


「警備し保する……か。保安局と何が違うのだ?」


「今後保安局は領外の情報収集などに専念させ、領内の情報収集や罪人を捕えるのは警保局に集約します」


「なるほどな、しかし領内の治安維持は各領主の仕事であろう」


「当家はその領主が当家しかありませぬ。あとは代官ですので」


 代替皆領地返納してしまったからその領主がいないんだよ。全部当家でやらなきゃいけないから警察も当然そうなるわけで。お陰で予算の集中投下が出来るから近代警察の嚆矢みたいなのも出来るわけだ。たぶん。


「通常、領内の警邏や罪人の捜査を行う者ですが、いざという時には軍と共に戦うこともあり得ますし、軍内の治安維持や将等の警護にも入ります」


 暗殺とかされちゃたまんないし、保安局からも出るけど、人手が足りないから基本的には警保局に要人警護もやらせよう。


「なかなかやることが多いのだな」


「父上どうですか?やってみませぬか?」


「いや、よい。其方に任せよう」


 一番上は単なる責任者なのだがな。


「という訳でだ、誰かやりたい奴はおらぬか?」


 戦には基本的に行かないという旨であったので、武将等でやりたそうな奴はおるまいな。と思いきや袰綿勘次郎がまた手を上げる。


「殿、僭越ながら某にお任せいただきたく」


「構わぬが、武功のある役目では無いぞ?」


 それ故指名してやって貰おうと思っていたくらいだ。


「確かに戦で名を馳せるものでは有りませぬが、領内の安寧を図るのも戦と同じくらい重要なことと考えます」


 敵の撹乱や工作、それに一般的な犯罪対処となれば戦をするよりも大事かも知れない。


「分かった。では袰綿勘次郎、其方が警保局を率いろ。細かい態勢については後ほど詰めようと思う。皆も良いか」


「異議なぁし!」


 概ねほっとしたような声で皆が同意してくれた。


「よし、では解散!勘次郎はそのまま残っていてくれ」


 皆が出て行き、勘次郎と二人残る。


「申し出てくれて助かった。が、本当に良かったのか?」


「はい。お恥ずかしい限りですが、某は他の者より戦が苦手なようでして」


「そうか?そんなこともないように思うが」


 確かに毒沢次郎に較べれば影に隠れているような印象ではあるが、いっぱしの武将になれると思うのだがな。


「それと先ほど申しましたとおり、領内の安寧を図ることは戦と同じことと思っておりますので、お気になさらずに」


「分かった。では細かい組織についてだが、何か案はあるか?」


「そうですね、治安をということでしたら騎馬をお許し頂きたく」


「騎馬か……良いなそれ。確かに馬から見下ろすというのは良かろう」


 人混みでも頭が出るわけだから見通しが良くなるし、騎馬はやはり威圧感があって良い。採用だな。


「分かった。しかし軍馬も必要だから余り多くは割けぬ」


「警保などやりたがる者はそう居ないでしょうし、問題ないかと」


「それもそうか。それで実際に手足になる者だが」


「それは学校卒業者から拾わせて頂こうかと」


 読み書き出来るし丁度いいか。


「分かった人選は任せよう。それと指揮系統なのだが、将来的には領内全体を管轄する部門と郡毎に細かく動く部門とに分けたいのだが」


「まずは領内全体でということですね」


 国家警察と地方警察、あまりに人口の少ないところは国家警察で代替かな。


「あとは軍での規律維持の部門も必要だ」


「結構色々ありますね」


「そうなんだよ。結構大変だが、本当に大丈夫か?」


「……ま、まあなんとかなるでしょう」


 思った以上に大変そうだと感じたかな。まあ産みの苦しみと言う奴だ頑張って貰おう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る