第三百三十七話 軍の近代化を進めます
鍋倉城 阿曽沼遠野太郎親郷
「父上、将を育てようと思うのですが」
「それは構わんがどうするのだ」
「兵学校を一つ設けようかと」
優秀で均質な将を作りたいな。
「それと軍のための工廠を作ろうかと」
今の職人による小規模な生産ではなく、徐々に大規模化、規格化、高度化をすすめたい。あとは製図機の製作もだが、これは弥太郎と相談だな。度量衡については以前毒沢次郎に統一するよう指示したが忙しかったしまだできていないな。
「将と武器を作る機関か」
「はい。特に随分と大きくなったので将たる者がたりませぬ」
「国人共にやらせても無理か?」
「おそらくは。十人とかせいぜい百人ならなんとかなるかもしれませんがそれ以上となると指揮したことのない数になりますので、当てにはならないかと」
一番できそうなのが和賀左近将監定行だが、すでに出家しており戦にはもう関わらないと言っているのであてにできない。息子の和賀次郎行義も大部隊の指揮を取ったことがないからやはりあてにできない。
「むぅ……当家は深刻な将不足だな」
「いっそお父上も鎧を着ていただかねばならぬやも」
「はぁ、楽隠居ができると思ったのだがなぁ」
おいおい、まだ三十路超えたばかりでしょう。
「清之のかわりに上洛していただけば……」
「もう都には行きとうない。都に行くくらいなら戦をしている方がよほど良いわ」
むぅ、頑なだなあ。今はこの遠野に下向してきた公家連中のもてなしをやってもらってるんだから都に居るのとそんなに変わらないと思うんだけどね。朝廷や幕府の政に巻き込まれるのが嫌なのだろうか。
「そういうこともありまして、将を作る学校が必要と判断しております」
「仕方あるまい。それでどこに作るのだ」
「は、八幡山の八幡社に設けようかと」
神社でそれなりの規模の建物と敷地があるのでそこを校舎として使わせてもらう。東側に馬場を設ければそれなりに様になるだろう。卒業したら叔父上らなどに付いて前線での指揮を学んでもらい将にしよう。時間がかかるな。
「あとですが、野戦で必要となる築城もできる必要があろうかと思いますのでこちらも対応できるよう、工兵というものを設けようかと」
「工兵とはどのようなものだ」
「大きな家ではある黒鍬衆です。陣の構築などを専門に行う者たちです」
今は兵らに道具を持たせてやっているけど、蒸気機関など専用の機械を使わせようと思うのでこのあたりで独立した兵として専門性を高めて行く。ついでに軍で新しい機械などの評価試験なんかもやってもらおう。
「ふむ、建設などとは別か」
「同じようなことではありますが、こちらは野戦の最前線でも働くことになります」
槍を持って突っ込んでいく訳ではないけど、渡河だとか坑道戦だとかやる関係で狙われやすいのでそれなりに死傷率が高そうだ。ただ山城は多いし、川を壕代わりにしている城も多いし地味に重要な兵科だな。
「なるほどな。しかしまた随分と銭のかかる戦になるのだな」
「戦は得てして銭が掛かるものですし、そのための富国強兵政策でございますので」
「儂はお前がどこまで見えているのかさっぱりわからんよ」
単に前世の知識があるだけなのよね。前世のアメリカみたいに圧倒的な経済力があれば片手間で戦争ができるし、全力を出せば馬鹿げた数の兵器をつくって戦場に送り込めるわけだ。まあ今生でアメリカを出現させたくはないのでなるべく早く日本の政治的統合を果たし、新大陸にいかねばならない。ならないのだが基盤をしっかり作っておかないとそれもできないからやや迂遠な気もするが学校は整備していかなければな。
「それはそうとして、若狭武田と誼を交わそうかと思っておりますが、父上如何でしょうか」
「如何も何も、お前はもう決めたのだろう。四条様にご迷惑がかからぬようにするのであれば構わん」
大内義興の上洛で幕府内での影響力を落としたようだが京のすぐ裏に湊を確保できれば交易なり上洛なりしやすくなる。六角とも縁を持っているようだしな。
「それで丹後守護には何か贈り物をするのか?」
「ええ、馬と麻布、鮭にぶどう酒も一樽贈ろうかと」
「ぶどう酒もか」
「いまぶどう畑を増やしておりますので、父上らには今しばらくご辛抱を」
贈るのは今回だけだしね。
「北郡(青森県東北部)や蝦夷の開墾が進めばぶどう酒も麦酒も増やせますのでご辛抱を」
「致し方ないのぅ」
やれやれと言った感じで父上が立ち上がって馬で駆けてくると言い残し出ていく。
一人になってもう少し考えてみると鉄が不足しそうなことに思い当たる。開拓用にチェーンブロックも量産しなきゃいけないし今後鉄道とか鉄筋コンクリートなんかも考えると、鉱山の近代化に高炉と櫂炉の増設を急いで、かつ平炉か転炉の研究も進めてもらわないといけないな。鉄は産業の米とはよく言ったものであれこれしようと思うと鉄の生産量がものを言ってくるな。
「殿、お時間よろしいでしょうか」
「陶山か。どうした」
珍しい者が来たな。
「いえ今まで使ってきた宮守の粘土が尽きましたのでご相談にと思いまして」
「むぅ、ついに尽きたか」
「はい。そろそろ無くなりそうだと思い、殿の御下知の通り大槌のあたりを探っておりましたら見つけました。つきましては大槌に窯を移すことをお許し頂きたく」
「わかった。そういうことであれば移転に問題は……あー大槌に人が余っているだろうか」
麻の栽培と帆布製造に人手が取られているからなぁ。釜石は鉄の生産に使うし、宮古だとちょっと場所が中途半端か。しょうがない、大槌にするしか無いか。
「あと高炉などに使う煉瓦用の粘土なら久慈に大量にあるぞ」
「ま、真にございますか!」
「ああ、細かい場所までは分からぬし、あそこは久慈の土地だから一筆書いてやろう」
筆を取って文を書く。そういえば祐筆がほしいな。考えておこう。
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