第三百三十一話 蠣崎戦前夜
大館沖(現松前沖) 阿曽沼遠野太郎親郷
「思ったより岩場だな」
「ここから兵を上げるのは難しいかと」
ここからだと難しいか。雪に聞いたのだと箱館戦争のときはこの先の乙部というところから新政府軍が上陸して海沿いに旧幕府軍に占領された松前城を目指したそうだから、それと同じようにいくのがいいかな。
「では勝山館あたりを見に行くか」
「承知しました」
「しかし碌な道が無いようだな」
「大砲を運ぶのは難しそうです」
参ったな人の少ない土地だから街道というほどの道もないようだ。
「駄馬ならともかく騎馬も難しそうだな。皆徒歩で向かうしかあるまい」
しばらく北上し右手に勝山館が見える。
「ここからの上陸は敵が待ち構えていそうだな」
「なんとか大砲は届くかもしれませんが」
「余裕がないのは良くないさ。やはり江差あたりまでは行ってみよう」
勝山館からすこし北上すると小さい島がある。
「ここが江差か?」
「さて分かりませぬ」
そりゃそうか。地名が書いているわけでもないし。
「分かりませぬがこの島のおかげで湊とするには良さそうですな」
「前世で江刺に来たことあるのか?」
「いえいえ道南ですと函館港しか寄港していません。波よけの島がありますので小規模ながら良港になると思いましてな」
そういうことか。
「ともあれここなら上陸するのは安全か」
「ですな。ここで上陸して勝山館と大館を目指すのが良いかも知れませぬ」
「大砲はさっき言ったとおり持って行けそうにもないから艦砲射撃に頼ることになりそうだ」
「そういうことはお任せください」
「守儀叔父上もそろそろ檜山城に到達しているだろう」
檜山への牽制攻撃はそろそろ始まっているはずだ。主力は守儀叔父上で戸沢にも兵を出させているがあくまで今回の檜山攻めこちらに兵を向けさせないための支作戦だ。まあ落とせるなら落として良いけど。ついでに十狐の浅利にも声をかけたが返事はない。浅利はあとで潰そうかな。
「あちらは戸沢と併せて七百ほどでしたか」
「ああ、こちらが主力だからな」
「ついでに檜山を落としても良かったのでは?」
「余裕があればそうしたいところだがな、いまは一つづつやっていくしかない」
方面軍を組織した信長軍くらいまでならないと二兎追うものは一兎をも得ずになってしまう。
「それでこちらに揚げるのは八百だ」
「一航海で運べる限界ですな」
「残り七百は木古内に揚げる」
「なるほど二手に分けて」
「戦力分散の愚を犯すことになるかもしれんがな」
「先年のアイヌの叛乱で消耗しているようですからなんとかなるんじゃないでしょうか」
「楽観的だな」
「ははは、悲観的に考えても仕方有りませんよ」
そうかもしれないけど、……まあいいか。
「それよりも雪様も仰っていましたが、蠣崎は窮地に陥っては宴会を催してだまし討ちをするような者です。お気をつけを」
アイヌの叛乱ではだまし討ちをよく使っていたし、大館を手に入れたのもアイヌの蜂起に託けてだというし謀将としては優秀なのだろうな。
「今回宴席を設けると思うか?」
「十分あり得るかと」
まあそうだよね。謀殺なんて俺もやってるし、できるのなら皆狙うよね。
「なんなら我らが上陸したところで宴席に誘ってくるやも知れませぬ」
「やれやれ面倒くさいな」
敵将が同じようなタイプだから、ある意味これまでで一番やりにくい相手かもしれないな。
「臣従するならそれはそれで良いんだが」
「よくありませんが?」
大槌を焼かれた恨みが天元突破している……。
「臣従したらしたで死んだ方がましな労働刑になるさ」
十勝だって開拓に人手がいくらあっても足りないから、臣従するようでも当主は十勝監獄送りで開拓作業に従事してもらうことになるが。
「臣従する前に首を取っても?」
「抵抗するようなら別に構わんぞ」
蠣崎を臣従させるのが目的ではないから蠣崎の首を取るのは問題ない。
「さて一度油川に戻って上陸戦力を連れてこよう」
十勝守が無言になってしまったな。まだまだやってもらうことがあるから無茶をしなければいいがな。
◇
大館 蠣崎若狭守光広
「阿曽沼の船が上之国に現れただと?」
「は、ただそのまま帰ったところからすると斥候かと」
「むぅ、上之国に上陸するつもりか」
「おそらくは」
河野加賀守からの報告をうけて戦がまもなくだと思う。
「とりあえず勝山館の守りを固めろ。蝦夷は碌な道が無い故、大砲とやらは使えぬはず」
「父上よろしいでしょうか」
「新三郎(蠣崎義広)か、どうした」
「阿曽沼が攻めてくるのが目前となっているにもかかわらず敦賀商人や檜山殿は一体どうなっているのでしょうか」
それも気になっている。当初の予定ではすでに三千近くの雑兵や野武士で迎え撃つことになっていたはずなのだが一向に姿を現さない。
「もしやすでに阿曽沼に襲われたのか、はたまた裏切ったのかは分かりませぬがこのままでは当家は滅ぼされてしまいましょう」
ぐうの音も出ないほどの正論である。
「なに少し争ったところで講和を請う」
「なるほど講和のため、のこのここの城に来たところを襲うのですね」
「そうだ。河野加賀守、支度を始めよ」
「はは!直ちに」
「敦賀商人が裏切ろうともそうそうこの首をくれてはやらんさ」
皆の手前嘯いてみたものの状況は厳しいな。阿曽沼とて神童と呼ばれたやつなれば、これくらいの謀くらいは読んでいるだろう。全く早まったようだな。この首だけですめば良いのだが……な。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます