第三百二十七話 蒸気暖房はできたそうだけど
鍋倉城 阿曽沼遠野太郎親郷
雪が降り始めた。この雪が溶ける頃には次の戦が始まる、いやすでに始まっているか。
「寒いわね」
「ああ、炬燵はあるが寒いな」
だるまストーブ
「ふふふ、そうだと思っておりました」
と庭から声がしたので見てみると弥太郎が鼻水を垂らしながらドヤ顔を決めている。
「弥太郎どうした?」
「実はですな、蒸気機関の応用で蒸気暖房を作りましてな」
「おお、城に置けるものなのか?」
前世では蒸気暖房なんて使ったことは……たぶんないから城におけるのかどうかはよくわからない。
「むしろ大規模な建物のほうが良いですな」
「そういうものか」
「ええ、もしくは蒸気配管を街中に張り巡らせて使うことになるでしょう」
なるほど蒸気を供給して地域暖房になるわけか。暖房だけ近代化してしまうな。
「何より個別暖房とちがって火元が一箇所にまとまりますので火事の心配が減りましょう」
たしかに木造建築ばかりだから火元が減るのは良いこと。
「ところで蒸気の配管は何で作るのだ?まさか木というわけはないだろう?」
木で作ったらすぐに腐りそうだが、意外と大丈夫だったりするのだろうか。
「陶製にしようかと」
「え、陶器?」
雪が素っ頓狂な声を上げる。俺も驚いた。
「コンクリートの土管とか鉄の管じゃないのか?」
土管と言えば某青いロボットで出てくるようなコンクリのイメージだな。
「鉄が使えればそれでいいのですが、生憎と大量の管を作る技術がありませぬし、鉄道建設にも必要ですので高炉の能力を上げていただかないと足りなくなりましょう」
「今の銑鉄生産量は一日二百七十貫ほどだったか」
「左様ですな」
「となると鉄需要に対応するためにまず高炉と櫂炉の増強、そして改良型の開発が必要か」
「はい。そして今の橋野などの山の中では土地が足りないかと」
「わかった。では釜石の造成を始めよう。はあ、銭がいくらあっても足りないな……」
「だから私掠船許可したんでしょ?」
「その為じゃないし、当然ながら敵対勢力にだけだからね」
まあ略奪品の三分の一を当家に、三分の一を海軍に三分の一を兵の給与に充てるわけだから多少当てにできるかなくらいなものだろう。カリブ海行きで金目の物満載ってわけじゃないだろうし。
「他にお金になるものはないの?」
「あとは紡績を改良できればいい稼ぎにはなるだろうね」
「製糸産業か。なんか歴史に沿ってる感じね」
「結局そういう風に発展させるしかないってことなんだろう」
「弥太郎さんとか殿とかの知識があっても無理なのね」
「そりゃね。雪も含めて俺たちの知識だけあっても周りの経済も教育も追いついていないからね」
「しかし某は蒸気機関つくりましたぞ?」
「量産と言うにはほど遠いだろう?」
「む、確かに」
一点物ならなんとかなるだろう。そこから発展して大量生産に移行するのだろうが、製紙でもまだなのだ、況んや他の産業はということだ。
「それにこうやって考えてきてくれるのは有り難いが燃料の問題が出てくるな」
すでに取り合いの様相になりつつある。釧路炭田も漸く稼行したばかりで船便も少なければ船も小さくて一度に運べる量もすくないからな。それに産業用途が優先だし。
「で釜石に製鉄所を移すとしてどれくらいの規模にするの?」
「いまのところ考えてるのは今までの高炉の五割増しくらいの能力のものだな」
四百貫の規模の高炉がうまくいくとは限らないけどね。
「あとはコークス炉の開発が結構進んだようでなそいつも作らなきゃいけないし、コークス炉ガスの研究もさせなきゃならないし」
「殿って人使い荒いわよね」
コークス炉ガスが使えるようになったら平炉が見えてくるんだよねぇ。平炉は櫂炉の延長線上だから高級鋼材をつくるなら今のところ平炉で、将来的には転炉へ移行できたらいいだろう。
「とりあえず経験値を積み重ねて知識を作るしかないから、人使いも荒くなるよ」
教育が安定してしまえばそういう問題も徐々に解決していくんだろうけどね。
「とりあえず蒸気暖房はもう少し先だな」
「しかたが有りませぬな」
「ちなみに試験機はあるのか?」
「まあ某の研究所で使用しておりますが。確かに薪がたくさん必要なので頻繁には使えませぬな」
まあそうだろうな。
「え、弥太郎さんところスチームストーブつかってるの?」
「ええまぁ、隙間風がやはり寒いですが」
「やっぱり建物の密閉性の問題あるわよね。それに和室にはちょっと似合わないか」
「そういえばそうだな。だるまストーブはなぜか良いのにな」
「配管が無粋ですからなぁ」
それか。いやそれがいいっていうのも居るだろうけど、和室にパイプがにょきっと生えたら違和感だな。慣れれば気にならなくなるだろうけども。
「床下暖房ならどうかしら?」
「蒸気が漏れたらシロアリが湧きそうだな」
結局鉄筋コンクリートでもできなきゃ日本ではむずかしいかな。
「でも暖房の研究は必要だから少しずつ進めておいてほしい」
「そういたしましょう」
そう言って弥太郎が退室する。
「そういえば今日はほしがらなかったね?」
「あら、何でも欲しそうにすると思った?」
「暖房だからほしがるかと思ったけど」
「ふふ、そんなの決まってるじゃない」
「え?」
「あんまりぬくぬくになったら一緒に眠れないでしょ?」
「ああーなるほどね」
そういえば寒いからって一緒に寝てたな。
「暖かくても一緒に寝たらいいんじゃないか?」
「むぅ、それはそうだけど、そうじゃないんだよ?」
よくわからないがそうじゃ無いのか。
「まあ良いわ。殿にそういうところで期待してないわ」
「なかなか辛いな」
「私が納得しているんだからそれでいいのよ」
そう言って雪が身体を預けてくる。
「そっか」
「そうよ」
そうして今年が終わりを告げる。
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