第二百六十一話 コークス製造は上手くいきませんでした

山田館 阿曽沼孫四郎


「ほぅ、それで斯波の若様は最近紫波郡で起きている賊働きに俺たちが関わっているのでは無いかと、そう疑っているのだな」


「そのようでございます」


「若様、本当なの?」


「ん、ああ本当だ。急激に領地が増えたがまだ安定しているとは言いがたいのでな。しかしすでに紫波郡と岩手郡の半分程度に大迫周辺しか持っていない斯波と閉伊郡に加えて和賀郡と江刺郡、それに胆沢郡の一部を手に入れた当家では兵力が逆転するのも時間の問題だ」


「なるほど、それで斯波からすれば今しか我らに攻めかかる時機がないと言うことですな」


「そうだ清之。しかしそれをわかっていながら何もしないというわけにはいかん」


 まあこの事は父上には相談の上でやってはいるがおおっぴらにはしていないので言いふらされても困るけど。


「時は我らに味方する。がその時を稼がねばならんのでな」


「それで斯波家中に不和を起こそうとしているのね」


「元々奥方派と若殿派に分かれつつあったからな。これで完全に分裂させようと言うことだ」


 それでもあちらの嫡男孫三郞はかなり優秀そうだ。今にも崩壊しそうな斯波家中をよくまとめているし亀ヶ森は孫三郞の配下になってしまった。このままでは稗貫も取り込んで何れは一戸や九戸の連中にも勝ってしまうかもしれん。そうなると折角できた我らの優位性が崩れてしまうだろうけど、ここで分裂させてしまえば半分にとまではいかずともかなり削れるだろう。


「それと荒らせば敵が飢えて弱るという事ね」


「そうだ。なんだ雪、其方もなかなか軍学に篤いようだな」


「あら若様のお側にいればこれくらいは耳学問でも覚えるわよ」


「ふむ、では今度からは雪にもみっちり軍学をたたき込むか」


 清之がそう言うと雪が苦い顔になる。


「まあそれはそれだ。左近、確り偽の噂を流しておいてくれ」


「はい」


 左近が斯波の情報を持ってきたので清之を呼んだ本題からすっかりそれてしまった。


「さて清之をこちらに呼んだ本題だが」


「松杭の使い方でございますな」


「うむ。爺なら知っているかと思ってな」


「誠に申し訳ございませんが、私も知りませぬな」


 なんだと……まあそれもそうか。何でも知っているわけが無いよな。


「ただこちらに参上します前に算博士に相談しましたところ、そのような工法は小耳にはさんだことがあるということで、四条様にそのような文献が無いか聞いてみていただけるようです」


 ありゃこれはまた四条様にお礼をせねば。とりあえず備蓄している鮭をいくらかと一粒金丹をいくらかを贈っておこう。


「まあ四条様に任せっきりというわけにもいかんから我らでも調べていこう。とりあえず実際どれくらいの間隔で打ち込むのが良いか調べていこう」


 まずは松杭の試験場を作るところからだな。



遠野先端技術研究所 三千代


 はてさてコークス製造か銅精錬かどちらか選べと言われたけれど、コークスなんて初めて聞いたくらいで勿論作り方なんて知るはずも無い。どういう物かというと木炭を作るように石炭を蒸し焼きにしたものだとか。一方で銅精錬は鉛を使うってんで、ちょっと危険を感じたからコークス製造することにした。でもなあ前世じゃあただの漁師だったんだがな。


 とりあえず木炭と同じように蒸し焼きにしてみようと思い、炭焼きの爺さんを呼んできた。勿論若様の朱印状をもって。


「へぇ、それでその石の炭を炭を作るようにやればいいわけですね?」


「ああ、頼むよ。上手くいったら若様に褒美を余分に出してもらうよう言うからさ」


「へへっ、そういうことでしたら任せてくだせぇ。若様がお作りになるのが何かはよくわかりゃしませんが、きっと我らの明日がよりよくなる物でしょうて」


 コークスだからなぁ。直接暮らし向きが良くなるかどうかはちょっとわからないな。そう思っていると手慣れたように庭を掘って、石炭を積んで土をかぶせていく。


「さて火を入れていくからの」


 焚き口に火の付いた薪を少しだけ差し入れる。


「そんだけの薪でできるんかい?」


「蝦夷では炭を作らんのか?いきなり強い火を入れてはうまくできんぞ」


「ん?ああ、薪で使うくらいだね」


 最初から強火だと失敗するのだとか。そう思って眺めているうちにもくもくと煙が上がってくる。木炭だとあの煙が薄い色になれば煙突以外は塞いでしまうのだとか。


「おっだんだん煙が薄くなってきたな」


 さて石炭で同じようにできるんだろうか。

 翌日、掘り出してみると一部は灰に、一部はスカスカの燃えかすに、一部は石炭のまま残ってしまった。


「炭を炭焼きしても無駄だと言うことですかの?」


 炭焼き爺さんはしょんぼりしている。


「いやあ若様や工部大輔様ができるってんだ。できらぁよ」


 となればなぜ上手くいかなかったか考えねぇとな。とりあえず上手くいったやつとそうで無いやつに分別する。


「焚き口に近いところは燃えて灰になっちまってるな。で少し奥側がすかすかの炭、もっと奥に行くと石炭のままか」


 てことはなんだ?火が入りにくいのか?


「なあ爺さんもっと火を入れやすい窯ってのはないのかい?」


「いやあ、炭焼きでこの方法しかしらんなあ」


 爺さんも頭を抱えてる。しかし熱の入れやすい窯ねえ、どっかに有ったような。


「炭焼きでなかったらさ綾織の登り窯とか橋野にある高炉だか反射炉だかいうやつがあるでねが?」


 そういえばあったな。もっと熱を出せる窯が。でもあれでコークスできるんだろうかね?


「まあ物は試しか。じゃあまず綾織の登り窯でやってみようぜ。爺さん、ああそうだ爺さんの名前聞いてなかったな」


「附馬牛の権助じゃよ」


「じゃあ権助爺さん綾織にいこうぜ」


「はぁあ、まあ仕方ないの」


 と、その前にコークスになったのかどうか工部大輔殿に確認してもらわねぇとな。

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