第二百四十三話 奈良漬け美味しいですね
鍋倉城 阿曽沼孫四郎
雑穀飯に鮭と漬物、それと味噌汁の昼飯だ。漬物で思い出す。
「そういえば南都には奈良漬なる漬物があるんだったか」
「お、童殿は
「ええ、何でも瓜の粕漬けだとか」
あれ旨いんだよな。下戸だとあれでもだめだし、食ってから運転すると飲酒運転になるそうだが、飯の友としてはあれはかなりいい。あの口に含んだときに香る酒の匂いに甘みが混じってとても旨いんだよな。
「うむ、あれがまた旨くてな。やあ話してたら食べたくなってきたわ」
「私も食べたいです。酒造りも始まりましたので良い粕ができたら当家でも作ってみましょうか」
「ほほ、楽しみにしておじゃるよ」
酒粕で思い出したが粕汁もそろそろ恋しいな。あれ温まるんだよな、個人的には鮭を入れるのが好きだったな。
「よし!頑張っていい酒作ろうな!雪!」
「え、あ、う、うん」
「よし、じゃあ小菊はどうか?」
「はい。何時頃とは申し上げられませんが、暦の作成は少しずつ進んでおります。それと測量に必要な算法も学んでおります」
「そうか、では引き続き精進してくれ」
「はい」
弾道計算出来るようになればいいんだけど、まあゆっくりやってもらえばいいか。
「じゃあ一郎の時計開発はどうだ?」
「は。とりあえずゼンマイ時計の二号機を十勝守様に預けて船で使えるか試して頂くつもりです。その上で壊れたところなどを改良していこうかと」
「わかった。それと各学校に時計を設置したいのでそちらの手配も頼む」
「承知しました」
丁度そのとき松崎と袰綿がやってきた。
「若様、遅くなりました」
「いやいや、忙しいところすまぬな」
「とんでもございませぬ」
「松崎、馬の調子はどうだ」
「は、数は順調に増えております。大きさはまだ変わり有りません」
なかなか改良は進まないか。
「まずは数を増やすのが重要だからな。焦る必要は無い。血が濃くならぬよう葛屋にまた他領の馬を仕入れさせる故、それでまた掛け合わせてみてくれ」
「はは」
「それと今年はいよいよ競い馬を行う専用の馬場を拵えるつもりだ」
「おお!となれば私の手塩にかけた馬たちが走るのですね」
「うむ」
「おい、神童殿、それは俺も出ていいんだろうな」
横から守儀叔父上が口を挟んでくる。
「ええ、勿論でございます」
たくさん出てくれた方が盛り上がる。盛り上がれば馬の改良に拍車がかかるし博打も出来るようにすれば娯楽の提供と当家の収入増も狙えるという素敵な試みだ。競技は前世でもあった1000mくらいから4000mの平地競走や障害競走、力を測る輓馬競争にエンデュランスのような長距離を走る競技だな。いまだと全部ダートになってしまうから芝の栽培もしなきゃいけないな。
皆の報告を取りまとめて父上に報告書として提出する。
「ふむ、なるほど。それと貴様の稲田のために疎水を作るというのは面白いの」
「お褒めいただきありがとうございます。川を堰き止め、水路を作るための混凝土の目処が付きましたので」
「どこにつくるのだ?」
「まずは城から近い来内川の上流に作ってみようかと思っております。その後は達曽部に以前築いた土塁を利用して作ろうかと。そのために工部でその専門の者を囲いたく」
流石にダム建設となれば専門集団がほしいし、今後のことも考えて知識や経験を積み重ねていきたいな。
「わかった。孫四郎、此度のように事前に知らせてくれれば貴様の思うようにやってよい」
ありがたいけど、そんなに自由にしていいのかな。
「十分実績を示しておるからな」
顔に出ていたようだ。
「では有り難く」
「うむ。今後もよくよく示すようにな」
「はは、精進いたします」
◇
というわけで父上の許可を得たので建設寮を始めよう。
「皆すまぬな。小姓をしてもらっているが其方らの誰かに建設寮を任せたいのだ」
「あの、若様、建設寮とは一体何でございましょうか」
来内竹丸がおずおずと聞いてくる。
「建設寮は土木、要は城を作ったり道を作ったり港を作ったり、或いは修繕したりする職工の集まりで、普請と作事などをまとめたものだ」
「若様、もう一つよろしいでしょうか」
「よいぞ」
「は、建設寮は職工の集団とのことですがそこの司になるということは我らの誰かが職工になるということですか?」
あくまで武士であって職工になりたくないということかな。
「職工になってもらってももちろん構わんが、民を指揮するというのは武将であれば必要な技能であるな。それに城をよく理解することにも繋がり、城攻めで活躍しうる立場ともなろうな」
「なるほど……。確かに民を指揮する訓練になりますし、城をよく知れば城攻めにも活かせますね。ところで工部大輔殿に作らせたという大砲の威力、ええと、千徳や安俵に天王館、はては二子城の有様を聞いておりますと今の城では守りきれぬようでございますが」
お、なかなか鋭いな。俺の主導でやろうかと思ったけどこれなら多少任せても良いかもしれないな。
「ほぅ、今の城では大砲から守りきれぬと」
「はい、そうではないかと思います」
「うむうむ。であればそなたに建設寮を任せようかの」
「ええっ!」
やっちまったという顔をするがもう遅いのだ。貴様は今この瞬間に建設寮の頭になるのだ。
「まあいきなり出来るわけはないからな。しばらく大宮様の許で算術を学べ」
「算術でございますか」
「うむ。土地の測り方などもあるからな。旨く使いこなせれば大砲をより使いこなせるようになり、城攻めや野戦で活躍できるし、田畑を潤せば民に慕われる」
「うぅ……、承知いたしました。この竹丸、来内家の名に恥じぬよう励みます」
戦で活躍できるという言葉に惹かれたのか、迷いながらも受け入れてくれた。
「そうか!それは重畳!そなたの活躍を期待している。何、失敗したら俺のせいにすれば良い」
「は、はい」
とはいえ竹丸もまだ元服していないから実質的に来内茂左衛門の監督下になるか。また後で父上に了承を得ておかねば。
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