第二百三十話 得守の蝦夷探検 壱

別茶路 大槌十勝守得守


 いつも通り何かあれば宴会。今回は別茶路全体での宴会だ。我々としても珍しい米だけの飯を用意し、鮭や燻製肉、味噌を使った料理などを並べる。

 

 米飯の山盛りに味噌と米の酒に別茶路の長老を始め大喜びだ。さらに周辺の集落にもここの話が伝わったのか近くの長老が数人参加している。主なものはトカチブトやトヒオカ、オベリベリとかいうところの集落だそうだ。


 その長老らが口をそろえて言ってくるのはシベチャリから守ってほしいと言うことだ。昨年はここも襲われたが、狩り場や漁場を巡っての争いになっているそうだ。概ねシベチャリ側が優位になっていたようで、今は昨年俺たちにほぼ全員討ち取られたせいで静かにしているが、いつまた襲われるかわからないとのことだ。


「十勝守様、ここは一つ恩を売っておいたほうがよろしいのでは」


「うむ、まあそうだな。これから我らの畑を増やすにも協力的であったほうが良かろう」


 なるべく保護することを伝え、その代わりこのあたりの森を開拓することの許可を取ると、そんなことでいいのならと喜んでくれた。ということで次は牛なんかを持ってきて狩猟に頼らずとも肉や飯を食えるようにしていこう。いずれ羊が手に入ればジンギスカン用に育てたい。


 さらにこちらでも麻を育てて布を作る話をすると更に喜んでくれた。畑も大いに造ってくれとむしろお願いされた。


 さてそんな喜んでくれたお陰で宴はさらにヒートアップする。いよいよ村の者たちも混ざってとなると、三人の子供がこちらに寄ってくる。


「トノサマ、トクモリサマ?」


「む、如何にも。大槌十勝守得守だ」


 三人はスチブン、ワトウ、キユニというそうだ。なんか前世で聞いたことのあるような名前だ。


「なにか聞きたいことがあるのか?」

 

 三人の中で


「アノネ、ユゲデテツ、ウゴク?」


 湯気で鉄を動かす?何のことを言っているんだと思っていると鯛三が合いの手を入れる。


「以前に工部大輔殿が鉄の球を湯気で動かしたという噂を小耳にはさみましてそれが真かという話になったのです」


 水車の代わりになにか使えるものが無いかということでそのような話になったと。


「なるほど、そういうことか。うむ、たしかに湯気で鉄が動くぞ」


 実際には見ていないけど蒸気機関のことを言っているのなら動くというしかない。


「ホントダッテ!ドウヤッテ!?」


 子供らしく怯むことなく聞いてくる。


「うぅむ、俺は詳しい説明ができぬ。どうしても知りたければ遠野に来てもらわねばならん」


「トオノ、オレタチ、イケル?」


「親や長老たちが許せばな」


「ヤッタ!トクモリサマ、カエルトキ、ヘンジスル」


 まあ子供の言うことだからな。まず親に止められるだろうし軽く流しておけば良い。


 これから釧路に行って、可能なら前世の根室や国後、択捉なんかも探索しておきたい。少し長い探索になる。台風シーズン前には帰路に着きたいのでどこまで行けるだろうか。


 別茶路の家族や友人たちと話をしていた華鈴がこちらに戻ってくる。


「そういえば華鈴、そなたはこれからの航海についてくるのか?またもどってくるのでここで待ってても良いのだぞ?」


「わたしのいばしょはとののとなりだ」


 まったく可愛いことを言ってくれる。



 翌朝、スッキリ快晴とまでは行かないがガスは薄く航海には支障のない程度となったので釧路に向け出発する。沿岸は霧が濃いので少し離れてギリギリ視認出来る距離を進む。


「カシラァ!見えましたぁ!岬が見えまぁす!」


 岩礁に気をつけながら釧路の河口に船を泊め、カッコで前回上陸した地点に向かう。向こうも気がついたのか川岸に人が集まってくる。その中にはこの地に残った春雄がおり、こちらに向けて大きく手を振っている。


「春雄よ息災であったか!」


「はっ!お久しゅうございます!おかげさまで元気にしております!」


「聞きたいことは数あれど、まずは世話になったこの集落に礼を言わねばならん」


「はい。では長老の家に案内致します」


 長老宅にお邪魔し、挨拶する。今回は荷を増やして来たので喜んでくれる。こちらでも米と酒が大変よろこばれた。


「長老は皆様のお越しをお待ちしておりました。今回もこのような善き物を持ってきてくれたことに感謝されています」


 たしかこの者は保安局の者と聞いていたが、そのような者でもやはり見知らぬ地で過ごすというのはかなりのストレスだったのだろうな。


「皆様をまた迎えられたことを神に感謝し宴を催したいと仰っています」


 また宴会か。しかたがないがこれも仕事だ。飯をともにするというのは友好関係の構築に大いに影響する。


 長老とひとしきり話した後、春雄からこの周辺の地理について説明を受ける。この近くの川はクスロといい、上流には温泉地があるという。おそらく前世の阿寒湖温泉などだろう行きたいな。それと昨年は川が氾濫して湿地が湖のようになってしまったという。この時代の建築技術では活用はできないかもしれない。あとは近くのハルトリというとこの近くで燃える土、おそらく石炭が採れるらしい。帰りにいくらか持って帰りたいので集めてもらえないかと聞いてみるとあっさり了承を得る。


「それで我らはこの先さらに東へ行ってみようと思うのだが春雄、其方はどうする?」


「某はここで皆様の帰りをお待ちしております」


「わかった。では霧が晴れ次第俺等はでるぞ」


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