第二百二十一話 葛西は分裂寸前

鍋倉城 阿曽沼雪


 他家への謀略も躊躇なく判断している若様を見ていると、順調に戦国時代の思考に染まってきているように思う。生き残るためにアレコレしてたら仕方ないかもしれないけどちょっと遠くに行っちゃったようなそんな気はする。孫八郎さんはベースがこの時代の人だからそこまで引いてなかったけど、弥太郎なんかはすごい表情になっていたわ。


 まさか悪銭を作ろうなんてね。若様が日本統一するかはわからないけど、そうなると通貨制度とか贋金対応とかどうするんだろう。通貨制度は江戸時代みたいに金銀複本位制にするのかな、それとも一足飛びに明治時代の近代通貨制度にするつもりかしら。贋金対応はなかなかどうにもならないわよね。前世でも撲滅できなかったし今生でどうにかなるとも思わないな。


 んーそれにしても若様の思い描く未来はまだちょっとわからないわね。まあ私は若様を守れるように体を鍛えて、子供が作れるようにしっかり食べて大きくならなきゃってくらいね。最近母様から武芸含めて色々叩き込まれているけど、子作りは前世の知識があるからまぁ、その、ね。


 食べるってので思い出したけど、干しぶどうが出来たから麦の収穫が終わったらパン作ろうかな。前世では時々作ってたから多分覚えてるし、バターは無いからあんまり膨らまないけれど。若様美味しいって言ってくれるかな。若様が好むか好まないかは別として、周りがほっとかないだろうからそのうち側室ももらうんだろうな。それはしょうがないけど、胃袋をつかんで誰が一番か今のうちに覚えさせておかないと。



寺池城 葛西晴重


「ほぉ、阿曽沼の当主が将軍に挨拶するため京に上るとな」


「はい。なんでも斯波を討ち倒したことの話を聞きたいとか」


 阿曽沼の主力が待ち伏せしているところまで誘引され、包囲殲滅されたと阿曽沼の嫡男の祝言時に話を聞いている。そのことをわざわざ将軍家が聞きたいとはな。


「阿曽沼は二子城を抑えたからには北上川を下ってくるか」


「おそらくは」


「ふむ。では当家もたまには歓待してやるべきであろう。阿曽沼守親を城に招くか」


「ご隠居様はいかが致しましょうか」


「父上はご容態が優れぬ。会わすことは難しかろう」


「しかし聞くところ、阿曽沼には高名な医者が居るとか」


「そうか、では来た時に医者を貸してもらえないか頼んで見るか」


 少しでも長生きしていただかなければ。今倒れられると漸く落ち着いてきた石巻の宗清めがまたぞろ伊達の力を借りて歯向かってくるやもしれぬ。であれば儂の気持ちだけでなく葛西としてもまだ生きていていただかなければならん。


「それと最近は江刺重親が和賀や稗貫が揺れていることに刺激されてか、武器を集めているようです」


 一門筋でありながら最近は独立志向が強くなっているようで頭を悩ませられている。これも葛西の力を削ぐための伊達の謀略に違いない。忌々しいな。


「それとは別に浜田と大原が戦をしておったな」


「はい。大原様が浜田を破っております」


 上折壁と遠藤も勝手に小競り合いをやっておるし、浜田はまだ懲りていないのか隙きあれば兵を上げよる。


「浜田は武蔵守様(葛西宗清)の支援を受けているようでございます」


 こっちも伊達の支援か、ますますもって忌々しい限りよ。


「ちっ、忌々しい武蔵守め。伊達の良いようにはさせん。戦の支度はしておけ」


「いつ頃で」


「夏に打って出る」

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