第二百十九話 小姓が付くようです
鍋倉城 阿曽沼孫四郎
そんな感じで激動の一年がまもなく済もうという年の瀬が近づいてきたある日、父上に呼び出される。
「父上のお呼びにより参上致しました。入ってよろしいでしょうか」
「うむ、入れ」
許可をもらい父上の私室である一の間に入る。
「御用とは一体……」
「うむ、そなたも九つになる。それでそろそろ小姓をつけてやろうと思ってな。まあすでに大槌得守や水野工部大輔などがそなたの寄子みたいなものではあるがな」
おお、ついに俺専用の家臣団か。
「有り難き幸せ。ちなみに何人ほどでしょうか?」
「はっはっは人数を気にするとはな、其方は何人欲しいのだ」
「能うなら十人ほど」
「ははは!大きく出たな。つけてやりたいがそこまでの数は無理だ。いまは四人にしておいてくれ」
さすがに十人は多すぎたようだが仕方がない。
「ところで小姓になるのはどの家の者でしょうか」
「うむ、まず来内茂左衛門の嫡男である竹丸、小国右衛門次郎の嫡男梅助、袰綿兵庫助の次男雪丸、後は其方が預かっている毒沢彦次郎丸だな」
彦次郎丸はすでに顔合わせをしているので問題ない。しかし他の者たちはちらっと見るくらいでなかなか話す機会もなかったな。
「新年の挨拶で小姓の紹介を致す。その前に一度会ってもらう」
小姓なんてつけられるのかなんか大身になったような気分だ。
「そういえば父上、なぜいままで小姓が居なかったのでしょう」
「う……、今までがカツカツであったからだ」
なるほど漸く俺に小姓を作るだけの余裕ができたと言うことか。
「お心遣い有り難く存じます。謹んでお受け致します」
「では明後日、顔合わせを行う」
「はっ」
◇
顔合わせの日となり四人の同年代の者たちと顔合わせをする。
「阿曽沼孫四郎である。皆よろしく頼む」
「「「「ははぁ」」」」
「ふふ、みんないい子ね。じゃあ自己紹介してもらおうかしら」
おなかが大きくなってきた母上が仕切っていく。隣には万一に備えてお春さんも待機している。
「は、では某から。来内茂左衛門が嫡男、竹丸でございます」
「お、小国彦十郎忠直が嫡男の梅助です。よろしくお願い致します」
「袰綿兵庫助の次男雪丸でございます。若様の小姓となることができ恐悦に存じます」
「毒沢彦次郎丸でございます。私が言うのもなんですが、外様の当家が小姓として出仕してよかったのでしょうか」
「父上のご判断だ。俺は何も言えぬ。それとも彦次郎丸は俺の小姓がいやか」
「めめ、滅相もございません」
四人それぞれ思い思いの言葉を発する。しかし来内茂左衛門の嫡男か、武士の世を終わらせかねない俺に対してなにか思うことがあるのでは。こういうのは早めに確認しておいたほうが良いだろう。
「皆頼む。ところで竹丸、茂左衛門から何か聞かされていないか?」
「父ですか?私が小姓に引き立てられて喜んでいたくらいですね」
息子には話していないのか。
「はいはい、お話は後でやってね。まずは礼儀作法からよ」
母上が手を叩いてお春さんの主導で作法を仕込まれる。足の出し方、座り方などを文字通り叩き込まれ、日が暮れる頃にはすっかりへとへとになってしまった。
「それじゃあ次は新年の挨拶でね」
そう言って小姓らに小麦粉と砂糖を練って作ったクッキーもどきを手渡す。以前クッキーって言ったけどこれ南部せんべいだよな。確か南朝の長慶天皇だったかが陸奥に行幸なされたときに赤松助左衛門が自身の甲で焼いて献上したのが始まりだとか南部せんべいの解説にあったような。前世でも南部藩の地域は皆食ってたしまあいいか。
「これは?」
「孫四郎が作ったせんべいよ」
前世の南部せんべいと同じくらいの大きさかな、ぱきっと割って口に放り込む。うむほのかに甘くてうまい。この世界では南部せんべいではなく遠野せんべいで売ってもいいかもしれないな。
「こ、これは甘くて美味しいです」
「これは何でできておるのですか?」
「それは言えぬ」
小麦粉に砂糖を混ぜて型で焼いただけのものだが保存が効くし腹にたまる。米の取れにくいこの地なので麦の粉でできるこの煎餅は便利だ。味付けは砂糖は入れずに好きなものを入れても良い。
まあスイートソルガムなんて言っても通じないし砂糖が採れるとバラす訳にもいかんのだな。いずれ砂糖を堂々と買えるようになったら教えようかな。
皆一枚食べたところで油紙に包んで懐にしまい、遠野城下に割り当てられた屋敷へと帰宅していく。
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