第二百十八話 いつかは武士がなくなるかもしれません
二子城 阿曽沼孫四郎
車館で和賀定行救出に赴いた保安局の鴎らと合流し、天王館、二子城へと向かう。
「随分手早く動いたものだ」
「流石でございますな」
「うむ。しかしこれ以上大きくなるのは今のところな……」
「兵も足りませぬな」
急に大きくなっても兵が同じように増えるわけではないからな。ある程度大きくなるまでは地固めしながらゆっくり歩を進めるしかない。
「幸い沢内太田はこちらに降りる手筈となったし、稗貫も根子を殺って落ち着けば仕返しとばかりに和賀に攻めかけるであろうからそれに合わせて動けば良いだろう」
「そううまく行けば良いのですが」
「まあ同じ轍はふまないかもしれんがな。そうなればこの新式砲で撃ちかければ良い」
あまりの重さに馬がすぐバテてしまうので随分ゆっくりとした行軍になっている、この新式砲は高炉でできた鉄を焼いて叩いて伸ばして作った鉄製大砲だ。三層構造で内側の筒、それを細長く薄い鉄板で巻き、更にそれがぎりぎり入る大きさの筒を金槌で叩いて作り、最後熱を入れて広げた筒にはめ込んで冷やして完成だそうな。お陰で五十貫目を超える重さになってしまった。それにしても鉄の大砲作るのって大変なんだな。今のところなかなか量産できなさそうなので大事に使わないとな。
さてそろそろ二子城か。前世では工業団地だったが、この時代は山というか丘みたいな感じなんだな。その丘の端っこに二子城があるという印象だ。清之や左近と一緒に近くを見ていく。
「良いな」
「何が良いのですか?」
「ん、この二子城を作り直そうと思ってな」
「鍋倉城のようにですか?」
「こっちも同じようにしてもいいがしばらくはここが前線になる。この山をまるごと城にして遠野郷に入れないための強固な城が必要なのだ」
ここと改良した安俵城でもって遠野への防衛線としたいね。
「しかし若様、この山をまるごと城にしては兵が足りませぬな。手薄のところから破られてしまうでしょう」
頑張ってせいぜい千ほどの兵では広い要塞は維持できないか。仕方がないので当面は二子城の小改良までかな。城に川湊を整備して北上川の水運を利用して義父上の居る寺池と商いができればいいな。
そんな感じにかるく周辺をみて二子城に入城する。
「遅くなりました。孫四郎ただいま到着しましてございます」
「孫四郎、やっときたか。其方にしてはずいぶんゆっくりだったな」
「は、何せ荷が重かったので馬共がすぐにバテてしまいました故」
「ん?なにを持ってきたのじゃ?」
「鉄の試製大砲一つに鉄砲を二〇丁、そしてこれを」
といって差し出したのは火縄の付いた小さな丸い壺。陶山陶工司右近にこの丸い小壺を幾つか作ってもらった。
「これは?」
「火薬を詰めたものです。これを敵に投げつけて攻撃致します」
「どれほどの威力か?」
「お目にかけたほうが良いでしょう」
そういうやすぐとなりを流れる北上川の河原に集まる。ついでに試製大砲も持ち込む。
「危ないのでその木盾から出ぬようにしてください。穂沼めもここでかがんでおれ。では清之頼む」
折角なので連れてきた穂沼にも見せておく。っと火縄に火を着けた清之が木盾からえいっと放り投げ、素早く身を隠す。ちょうど中洲あたりに落ちたところで轟音と閃光を上げて爆ぜる。
「如何でしょうか」
「うむ、おおむね棒火矢とかわらんか、やや威力が高いか」
「ええ、ただ弓を使えぬ城内や集落内、あるいは弓を使えぬ雑兵でも扱えるというのが一つ。それと壺ではなく鉄の玉にすれば大砲で敵の頭上で炸裂させることも可能です」
皆頭の中で炸裂する鉄の玉を想像したのかゾッとした表情になる。
「これで敵を一網打尽にすることもできますのでより少ない兵で戦に勝つことができるでしょう」
実際榴弾を使うのはできれば後々にしたいところだが。
「そのための黒金でできた大砲か」
「あぁいえこれは高炉で鉄が得られましたので大砲にしてもらっただけです」
「僭越ながら若様よろしいでしょうか」
そう聞いてきたのは来内茂左衛門だ。
「よいぞ、なんだ?」
「こうなると足軽こそ戦に必要になるように思いますが、我ら武士はどうなるのでしょう」
「ふむ、たしかにこれらの兵器は足軽でも扱えるものではあるがある程度修練が必要であるし、指揮するものが必要だ。それにすでに活躍していると思うが、騎兵、あれは普段から馬に乗りなれていなければ出来ぬ。そもそも幼少の頃より武芸を叩き込まれる武士と足軽では戦の勘所が違う。いずれ武士も民もなくなるかもしれんがそれはおそらく遠い未来だな。またその頃には武士も今とは違ったものになっているだろうな。尤もまずは我らが生き延びることができるか、だがな」
うん、まずは戦国の世をなんとかならなきゃ先のことを考えるだけ余裕が出てきたということにしておこう。
「しかし来内茂左衛門も言うように先のことを皆気にできるだけ当家も力が着いたということだな」
すかさず守儀叔父上がフォローして多くの者がなるほど、それもそうだななどと声を上げる。しかしその横で幾人かが少し渋面を作っていたことにこのときはまだ気づかなかった。
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