第二百十七話 頽廃する和賀

新平館 和賀小四郎定久


「ではまず阿曽沼の動きから知らせてもらおうか」


「は、阿曽沼めは二子城を落としはしましたが、それ以上は攻め込めぬようです」


「やはり兵が少ないか」


「そのようで。我らが留守にしていたところを横から掠め取ったようですな」


「ふむ、しかし安俵に五百もいれてそれ以上兵を用意できるとは思わんのだが」


 頑張っても先の戦の千程度が上限であるはずだ。それも自領の守り戦でである。攻め入るとなればこちらに出せる兵はもっと少なくなるはず。


「どうやら笹竜胆紋が混じっていたようでして」


「小五郎か。忌々しいな何騎ほどか」


「はい小五郎殿が率いる二百騎も居たようです」


 やつの配下の二百騎がそのまま遠野に行っておったか。それでもこちらにはそんなに出せぬはず。となると、


「安俵にいる五百という数は嘘だったかもしれぬな」


「なんと、どういうことでございましょうか」


「なに五百騎で安俵に詰めれば俺等の目は自ずと安俵に向くであろう」


「左様ですな。寡兵とは言え側面を打たれれば敗れるやもしれませぬ」


 家老の八重樫丹後守重久が応じる。


「そうだ。しかしその五百というのが嘘であったらどうだ」


「なるほど幟を多く持たせて安俵の兵が多いと思わせたと」


「実際にはそれほど多くはなかったかもしれん」


「しかしそれにしても厄介なのはあの大砲というものですな」


「塀を壊したりあるいは飛び越したりするようだな」


 あの大砲や鉄砲とか言うもの、更には破裂する矢などの対処ができなければ勝つのは難しい。どう対応するか考えていると平沢右馬助が口を開く。


「数であれば我らが上ですので野戦で叩けばいいでしょう」


「たしかに阿曽沼だけ見れば我らが優勢だ。しかし斯波や稗貫はどうする」


「稗貫は反抗した根子や高橋めの対応にかかっておるでしょうから今であれば阿曽沼だけを相手にできるのではないかと」


 右馬助の言うことは尤もである。


「で今我らの兵は如何ほどか」


「およそ二千ですな」


「であれば行けるか……?」


「お待ちくだされ、右馬助の言うことも一理ありますが二子城より逃れてきたものが言うには六百騎ほど居るようです。野戦に引き込もうにも数で劣る阿曽沼が出てくるとは思えませぬし、二千で落とすのは難しいかと」


 八重樫丹後守の言葉に一同黙り込む。


「やむを得ん。まずはここが落とされぬようにするか。大砲とやらも数は無いようだし一回撃てば次撃つまでだいぶ間が空くようだからな……」



二子城 大槌十勝守得守


 まもなく冬かなというよく冷えた朝、大砲の様子を見に行くと罅が入っているのに気がつく。


「あちゃ、罅が……こりゃあ次の戦には使えんな。直すとしても扱える鍛冶が遠野にしかおらぬ」


 直すとしたら鋳溶かしてまた鋳造するしかないか。とりあえず殿様に報告して指示を仰ぐか。


「そうか、大砲が壊れたか」


「はい。いかが致しましょうか」


「どうするもなにも作れるのは工部大輔くらいであろう?」


「その工部大輔殿は鉄の炉にかかりきり……」


「こまったの……」


「兄上、大砲が使えぬのは残念ではあるが、それよりもまずはこの二子城を直さねばならんだろう。神童殿が来るのはいつ頃か」


 守儀様があまり残念そうではない顔で応じる。たしかに攻め入るより足元のこの城を使えるようにするほうが先決ではありそうだ。若様がそろそろ来るということだがさてどうなるやら。

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