第二百十六話 和賀の乱終結へ
花巻城 稗貫右衛門佐晴家 ※三人称です
「どうしたのだ、和賀が引き上げていくぞ」
「まさか斯波御所から援軍がまもなく到着するので恐れをなしたとか?」
「なんにせよあとは根子と高橋だけだ。動けるもののみ集めよ!斯波軍とで挟み撃ちにする!」
和賀軍が撤退したことで稗貫軍の士気が回復し、一方で攻囲に加わろうとしていた根子が見るからに士気を下げている。
「根子らを蹴散らし、まず高橋の湯ノ館を落とすぞ!」
わずか二百騎程度な根子軍は千近い稗貫軍の猛攻に蹴散らされる。その勢いのまま高橋の居館である湯ノ館へと駆けていく。湯ノ館に籠もった高橋与四郎らであったが増援が見込めないことと、斯波と併せて三千に迫る敵を前に陥落した。反乱した高橋与四郎と男子は三歳の千代丸にいたるまで斬首、室や女たちは人買いに買われていく。
「篠屋?」
「斯波の若様が懇意にしている商人だそうです」
「ふうん。それが高く買うというなら特に問題はない」
相場の倍の米と引き換えに女達は篠屋に連れられていく。
「少し休んだら根子上館に向かうぞ!」
根子も根こそぎ人買いに売り払って手に入る米の皮算用を始める。
「くくく、なかなかいい儲けになりそうではないか」
「はは、思ったより良い値でしたな。京の商人と言うので値切ってくるかと思いましたが」
「その分斯波の若様からうまい汁を吸わせてもらっておるのだろう」
「今後は当家でもあの篠屋を懇意にいたしますか?」
「そうだな。それもいいかもしれん」
◇
鍋倉城 阿曽沼孫四郎
「で葛屋よ首尾はどうであった」
「は、高橋めの男は残らず斬首、女どもは売りに出されましたので買ってまいりました」
聞けば三歳児まで斬ったとか、この時代の常識かも知れないが流石に受け入れがたい。女どももいくらか乱暴されたものがいた。今後乱暴されていなければより高く買うと言わせているのでどうかな。とりあえず城下から少し離れた浜峠に収容所を作ったのでそこで体を休ませるよう女房共に指示を出し、以後の主たる管理は母上に任せることとした。
「ということで母上、よろしくお願い致します」
「はい。そういうことでしたら喜んで手伝いましょう。雪やそなたも頼みますよ」
「はい!」
「三喜殿、あの者らの体調管理をお願いします」
「ほっほっほ、おまかせを」
身の回りの世話などは母上や雪、お春さんを中心に任せ、体調管理は三喜殿の手を借りることとなった。
「こういう乱妨も今後領土拡張すると出てくるか……。やむを得んとはいえ嫌になるな」
◇
山田村細浦館 小国右衛門次郎
先日大槌十勝守得守殿が来られたが、なんでもゆくゆくはここに造船所なる船大工の集まりみたいなものを作りたいとか。今度この山田に作るという船を持ってきてくれるというので楽しみだ。
小国からこちらに配置換えとなったが相変わらず米のとれにくい土地であるので何らかの食い扶持が得られるのはありがたい。小舟では湾内はともかく湾外までいって帰ってこないものがちらほら見受けられるからな。先だって帆布とやらに使う麻畑を整備したいとのことだったので谷地になっている織笠川の猿神から上を麻畑にしよう。
「十勝守様の船はずいぶん大きいと聞きますな」
「そのようだな。といっても俺は海を見たのもこの山田に来てからだからどのくらいが普通の大きさかはわからんがな」
それと織笠川と関口川にも鮭が上がってくるのには驚いた。殿様に報告したところ殿様は大いに喜んでおられたが、若様から鮭の生態をよく調べるようにという下知を頂いた。しかし生態とはなんのことなのか、魚など海や川から湧いてくるものではないか。そう問えば人とて自然に湧いてこぬだろうと言われたがあれは魔羅をホトに押し込みそこに神仏の力が加わって子が生るのではないのか。
「そうだな、それでは鮭の卵を見つけたらそれを育ててみるがいい」
などと若様には言われた。
「そうすればわかると」
「ここで問答するより、百聞は一見にしかずというであろう。その目で確かめてみよ」
そうまで言われてしまっては確認するしか無い。しかし確認するとてどうすればよいのだと改めて聞いてみたところ、まもなく鮭が上がってくる時期だから鮭の子を拾ってきて育ててみるよう言われた。
「鮭の子な……いっそ鮭が上がっていくところを追いかけてみるか」
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