第二百十四話 二子城落城

花巻城近郊 和賀小四郎定久


「なに!極楽寺が焼けただと!」


「はい。焼け跡から二つ骸骨がでたそうです」


「警邏のものはどうしていた!」


「二人であたっていたはずですが姿を消しております」


 してやられたわ。兄上らはおそらく逃げたのであろう。火をかけたのは追っ手の目をごまかすため、手引をしたのは家中のものか、小五郎かあるいは阿曽沼、はたまた考えにくいが他家か。

 考えているとまた別のものが本陣に入ってくる。


「申し上げます!口内くちないで三人連れの怪しい影を見つけましたが、江刺領内に逃げ込まれてしまいました」


 江刺の手の者か……?和賀を乱すために?いやであるならば見当違いのところに逃げるはずだ。であればやはり阿曽沼か。


「も、申し上げます!阿曽沼です!阿曽沼の騎馬が射掛けて来ました!」


「なんだと!数は如何ほどか!」


「わずか十騎ですが、腹当に弓のみの軽装で射掛けて来たかと思うと、そのまま駆けていってしまいました」


 実際の被害はほぼないとのことだが、後方から思いもよらぬ攻撃を食らったことで士気が下がっていると。それにしても安俵からは兵は出ていなかったはず。


「安俵城の動きはどうなっている」


「特に大きな動きがあるとは聞いておりませんな」


 相去清四郎が答える。十騎程度ならこちらにもれぬような動きは可能か。


「その騎馬はどこから来たかわかるか」


「いえ、南から東に駆け抜けていってしまいました故」


 稗貫に与したという話も聞こえてこないので、阿曽沼の独自行動なのであろうか。阿曽沼独自の動きとなると狙いはなにか。兄上を奪ったことの目眩ましはあるだろうが、すでにその動きも漏れている。となれば狙いは二子城か!


「二子城の状況はどうなっているか」


「特に何も報せは来ておりませんな。一体どうしたのです」


「阿曽沼が、来る!」


「は?まさか安俵に五百詰めているというのにそれ以上に兵を集めることができるとは思いませぬ。それに天王館もあれば北上川も流れております」


 普通に考えればそうであろう。しかし阿曽沼は何かおかしい。見たことも聞いたこともない大砲や鉄砲とかいう武具を持って襲いかかってくる。かと思えば先程のように少数の騎馬で撹乱するかのようなやり口、いささか卑怯ではあるがな。


「お館様は心配性ですな。先程の騎馬もろくな甲冑も着けられぬ者を嫌がらせにわずかに寄越しただけですぞ。阿曽沼に兵の余裕が無いからこその動きではないでしょうか」


 相去清四郎の言葉に他の将たちもそうに違いないと声を上げる。その周りの声を聞いていると阿曽沼を少し過大評価していたかもしれぬように思うし、なんならこの戦の後でゆっくり圧し潰してやれば良いのだ。



天王館 阿曽沼守親


「大砲の威力は凄まじいな」


「この棒火矢というものも、なんという威力だ」


 小五郎定正と左近将監定行は感心しきりだ。大砲の発砲を合図に棒火矢を射掛けると戦の準備出来ていなかった梅ヶ沢は降伏を申し出てきたので、当主の首を差し出すことで降伏を受け入れた。


「さてゆっくりしている暇はありませんぞ。小四郎が戻ってくる前に空っぽの二子城を落とさねばなりませんからな」


 おもったより早く攻城出来てしまったため、当初予定にはなかった二子城の攻略に取り掛かる。早速城の外では丸太を結んで作った浮き橋を北上川に少しずつ繰り出している。浮き橋に板を打ち付けて歩きやすくしている。


 二刻ほどで浮き橋が出来上がったので早速渡河を始める。保安局からの情報で二子城の留守居役は八重樫掃部助(かもんのすけ)で二百の兵が残っているという。とりあえず降伏を呼びかける使者を放ったが門前払いされた。


「降らぬか。左近将監よ随分と嫌われたものだな」


「貴様に敗れて当たり散らしておったからな」


 なるほどそれで縁を切られたと。当主の座を簒奪した小四郎とどちらがましかわからんな。


「まあそういうことだ。砲隊に通達、砲撃を開始せよ」


 砲撃に合わせて棒火矢を大手門に射掛ける。流石に和賀の本拠だけあり扉は固く、数発の棒火矢ではびくともしない。


「危険だが仕方ない、破城槌で抉じ開けろ!」


 大砲もいいがやはり古来からの戦というのも良いものだ。炮烙を投げ込み、相手を牽制しながら大手門を破壊する。その間にも時折大砲が轟き二子城内に悲鳴が上がる。八重樫とやらが物見に出た際に砲撃の直撃をくらい、見るも無惨なことになったため士気が落ち開城された。


「勝鬨をあげよ!」


「「「「おおおおおー!」」」」

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