第二百八話 和賀定行救出作戦 壱
鍋倉城 阿曽沼孫四郎
「和賀小四郎が名代で参りました平沢右馬助でございます」
「わざわざ当家に来られるとは如何なさった」
「我らはいま稗貫と戦をしております」
「うむ。それで」
「阿曽沼様から兵を出していただきたく、お願いに上がった次第です」
父上は難しい顔で黙り込む。一方で和賀の三男、和賀定正は憎々しそうな顔になっている。
「なるほどな確か稗貫は斯波の助力もあり今はにらみ合いに成っているのであったな」
「はい。そこで阿曽沼様に横槍を入れていただければ我らの勝ちが揺るがないでしょう」
「なるほど。ところで和賀の当主殿の文は無いのか?この文は小四郎定久殿になっておる」
父上の言葉に平沢右馬助の眉がピクリと動く。
「わが殿、小四郎定久が和賀の当主でございます」
「なんとそれは異なこと。左近将監殿(和賀定行)であるはずでござろう」
「左近将監様はお気が触れたため今養生なさっており、小四郎定久が当主となっております」
「うむ。卑劣なる手で当主の座を簒奪したと聞いておる。義によらぬそなたらに手を貸すことはない。申し訳ござらぬがお帰りくだされ」
顔を赤くした平沢右馬助が部屋を出ていく。
「遠野の田舎侍がいい気になりおって、思い知らせてくれるわ」
捨て台詞を残し去っていく。
「さて和賀に喧嘩を売られたので買おうと思う。反対するものは?」
「兄上冗談はよしてくれ。売られた喧嘩を買わぬとかあり得んぞ」
「くくく、ではまずは定正殿との約定により和賀の当主である左近将監殿をお救いしよう。孫四郎!保安局のものを何人か貸せ」
「御意に。では左近に命じて左近将監殿をお救いする部隊を早急に用意致します。ところで我らには左近将監殿の面を知っているものが居りません。定正殿、誰かお借りできませぬか」
「俺が行きましょう」
和賀定正が口をあけようとするが、筒井内膳が被せるように発言する。
「定正様では目立ちすぎます。ここは極楽寺との面識もある某が参りたく存じます」
「うむむ、仕方がない。内膳頼むぞ」
「ははっ」
「よし左近将監殿の救出はそれでよい。それで今和賀の主力はどこに居る?」
十二丁目城が落とされ現時点では豊沢川を挟んで和賀・稗貫の両軍がにらみ合いになっている。和賀はそれに加えて稗貫に反旗を翻した根子氏が西から、湯の館を出た、高橋氏が来たから攻囲せんと花巻城を目指しているという。一方で稗貫は稗貫で斯波の援軍を待って攻勢をかけるつもりのようだ。
確かに今花巻城を攻めれば稗貫は倒せそうだが、おそらく和賀が取って代わるだけで我らとしては旨くない。それどころかそのまま我らに攻めかかってくるかもしれないと。それなら我らは花巻城を目指すのではなく和賀を攻めたほうが良いだろうと。ついでに当主を救えば恩も売れるだろうという打算もありそうだ。
◇
鍋倉城城下 阿曽沼孫四郎
数日の後に兵が集められる。今回は車館に集まって出撃するのが六百騎そのうち二百は和賀小五郎定正の配下の兵だ。あとは稗貫と和賀の目を引くように安俵城に三百騎。今回の目標は和賀の本拠、二子城と川を挟んだ向かいにある天王館の確保と和賀左近将監定行の救出だ。救出隊は山伏の格好をした五人の保安局員と同じく山伏の格好をした筒井内膳だ。内膳は山伏の格好をなかなか楽しそうにしている。
今回の大将は父上、副将に守儀叔父上、客将として和賀小五郎定正がでることとなった。守綱叔父上は安俵城に入って敵の牽制をする役目である。安俵城周辺に持ち込む棹は目くらましもかねて大量に持ち込むそうだ。
「小五郎殿も出るのですね」
「和賀家中に揺さぶりをかけるものだ。左近将監殿を救出したら奥方と嫡男はこちらに、左近将監にはともに降るよう呼びかけてもらう」
そういうことか。小五郎殿も心なしか嬉しそうだ。
「応!兄上をお救いできぬのは残念だが内膳に任せよう。頼むぞ」
「ははっ」
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