第二百六話 斯波家中に不穏な影

高水寺城 斯波孫三郞


「それで稗貫殿が我らに援助を求めたということですね」


「左様にございます」


 高水寺城の書院には稗貫晴家から支援を求める使者が来ていた。権威を維持するためには出した方がいいだろうというのもわかるが、正直遠縁になったとはいえ和賀と稗貫の一族内での争いでありわざわざ我らの戦力を出すのはどうなのだろう。


「わかりました。稲藤大炊助(おおいのすけ)や兵はどれくらいだせますか?」


 母上は最近この稲藤大炊助と言う者を重用しているようだ。よく相談にも乗ってもらっているのか度々城で見かける。あまり決まった者を重用すると家臣不和の種になりかねないので諫めるべきなので一度申し上げたらこっぴどく叱られてしまったのでそれ以来何も申し上げないことにした。


 稲藤らを中心として二千ほどの兵を出すという話になった。この評定のあとに岩清水右京と梁田中務を呼びつける。


「若様、お呼びと伺い参上しました」


「忙しいところすまぬな」


 ちょうど細川長門による手習い中であったが、少し手を休めて3人に向き合う。


「若様直々にお呼びとは一体何事でございましょうか」


「いやなに、最近母上が稲藤大炊助がお気に入りのようで予てからの重臣たるそなたらの扱いがおろそかになっているように見えたのでな」


 3人の肩がビクッと動く。


「ははは……若様にはお見通しでございましたか」


「ああもあからさまではな……」


「して、若様はどうなさるおつもりで?」


「中務、どうにかしてやりたいが俺はまだ元服もしておらんし、今家中を割ってはそれこそ九戸や阿曽沼の餌食になろう。済まぬが今は耐えて欲しい」


 このままでは遠からず家が割れてしまう。そうなっては阿曽沼に勝つどころではない。まずは家中をまとめるところから始めねばならんとはなんともかんとも。小さいが故にまとまっている阿曽沼がうらやましく思う。


「ぐすっ……若様……若様そこまでお考えで……この長門、この命若様にお預け申します!」


「不祥この右京も長門殿に同じく」


「この中務も今しばらくは雌伏を致しまする」


「頼む。今は耐えるのだ。耐えてこそ得られる真の栄光をこの手につかむその日まで、貴様らの命、この孫三郞が預かる!」


「は、は、ははぁ!」


 これで少なくともこの3人は俺の手駒となったであろう。次は情報を集めなくてはならない。忍びを雇いたいがどこかに適当な者が居ないだろうか。今度篠屋が来たときに相談してみよう。


 それと弟である熊千代だ。史実どおりなら雫石詮貞になるはずの者だ。残念ながら三男の猪去詮義は生まれる前に父上が死んでしまったから史実通りに猪去御所は作れないがやむを得ない。熊千代には行く行くは史実通り俺の手となってもらいたいから早めに教育を施したい。



鍋倉城 阿曽沼孫四郎


「そうか、斯波は母子で割れそうか」


「はつ。先の戦で斯波兵部大輔様が斃れてから、重臣であった岩清水や梁田、細川といった者らを遠ざけ、稲藤大炊助なるものを重用しているようでございます」


 それに対抗してか、家中が割れそうになっていることを重く見てかはわからないけど、その遠ざけられた者を斯波の嫡男が手懐けたと。


「斯波に兄弟は居るのか?」


「はっ。三歳の熊千代という弟がおりまする」


「であれば熊千代は嫡男の手に渡らぬようにせよ」


「御意」


 斯波家とか印象薄いからあんまり覚えてないけど、せいぜい家督争いしてもらうようしっかり育ててもらわねばな。

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