第百九十七話 得守の報告

鍋倉城 阿曽沼孫四郎


 大槌から前触れが来た。なんでも得守がもう帰ってきており、至急登城するという。


「父上、得守はなにかあったのでしょうか」


「なんでも向こうの長老からたいそうなものをもらったとか書いてあるな」


「大層なものですか?」


「うむ。しかし急いで帰ってくるからには、かなりのものであろう」


 そんなに急いで帰ってくるとは一体何だろうな。


「案外、お嫁さんをもらってきたりしてるんじゃない?」


「いやいや雪さん、さすがにそれはないだろう」


 まさか言葉も風習も全く異なる集団に嫁さんを贈るとか、よほど仲良くなるか利益が得られるかでないとないだろう。


「むー、じゃあ若様は何だと思う?私はお嫁さんもらってきたにご飯を賭けるわ」


「んーそれじゃあ俺は襲われたので慌てて帰ってきたにご飯を賭けよう」


 前回は上手くいったけど今回は運悪く襲われたので、急いで帰ってきて増援を要請するってのならあり得るんじゃ無いかな。新天地探検で何も無い訳がないだろう。そういう襲ってくる部族が居ることを知ることも大事なことだ。


「やはり鉄砲を持たせた方がよかったかもしれませんな」


「うむ確かに弓と槍と刀ではなかなか厳しいかもしれん」


 鍛冶も人が足りぬし今年は農具を中心に生産しているので鉄が足りないんだよな。葛屋に言って少しずつ買い集めてはいるが、西の方もきな臭いのか刀も槍も鍋も値上がりして思ったほど買い進まぬ。


「若様どうしたの?難しい顔して……」


「あいや、なかなか鉄を買い集められなくてな、近々大戦でもあるのだろうか?」


「んー今年が永正二年でしょ、この時期はあんまりしらないけど古河公方の家督争いでおっきな乱があったはず。それと永正の錯乱って言う細川政元が殺されて畿内が荒れまくるのよ」


 関東も畿内もすでに荒れまくってるように思うけど、これ以上に荒れるのか。何も出来ないけど、なんとかしたいものだな。



 得守が登城してくる。そこには4人の見知らぬ者が連れられている。


「大槌得守、ただいま戻りましてございます」


「うむ、大義であった。しかし斯様に早く切り上げてくるとは一体如何したのだ」


「は、実はベッチャロという以前も行った村に行きましたところ、村同士の争いに巻き込まれました」


 襲われたのか。予想は俺の勝ちかな。いつもよりたくさん飯が食えるな。


「うむ、続けよ」


「襲撃は二度ありました。二度目は二百ほどの兵に襲われましたが、これを撃退致しました」


 あれ、勝ったのか。じゃあどうしたんだ。


「敵の将らしき者を捕らえて敵方の情報を吐かせるよう、狐崎の三男にやらせております」


「ほぅ、それで兵が欲しいと」


「はっ、お許し頂けるなら。それともう一つ」


「なんだ。それは後ろの者たちのことか」


「左様にございます。このうち一人は我らの言葉を少し話せる者です。穂沼殿、挨拶してくれ」


「ワタシ、ホヌマ、アソヌマ、ツヨイ、チョウロウ、アソヌマ、ナカヨク、シタイ」


このホヌマという者は長老とやらに言われてきたのかな。


「えぇと、ベッチャロの村を助けたところそこの長老から、我らと誼を結ぶための人質として穂沼殿は来ております」


 なんと、向こうから誼を結びたいと。そう思わせるとは得守め、向こうでどれだけ暴れてきたのだ。となると後ろの妙齢ぽい女たちはそのために父上に嫁がせられに来たのかな。


「それとこの後ろの女子は一人が、そ、それがしの妻にすると……」


 おっと、父上ではなく得守の妻にすると。母上の表情が目に見えて柔らかくなってる。


「それでもう一人の女子はそれがしの妻の付き人にございます。もう一人の男は三千代といいまして我らに学びに来ております」


「なるほど……。それで婚姻を認めてもらおうと戻ってきたと?」


「はっ。左様にございます」


 うぅむ、これでは雪の予想が当たってしまったじゃ無いか。チラリと雪を横目に見ると、ドヤって感じになっている。ちっ、賭けは引き分けだな。


「特に禁ずる理由も無いな。ベッチャロという村と誼を通じるのはありがたい。そなたらの次男坊、三男坊も新天地に行けば嫁が来るかもしれんぞ」


 父上がからからと笑いながら冗談を飛ばす。武将らも声こそ笑っているが目が笑っていない者が何人かいるぞ……。これは次回以降の蝦夷派遣団は人が増えそうだ。


 祝言を執り行うこととなるが、準備に時間がかかるので今しばらく遠野の屋敷に滞在するよう下令する。

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