第百九十四話 敵を追い払った報酬は村の姫でした

ベッチャロ近郊 大槌得守


「殿、長老がお呼びです」


「わかった」


 作業の指示を終えると長老から呼び出しがかかる。一体どうしたのだろうかと思いつつ長老の家に参上するとホヌマ殿が出迎えてくれる。


「御呼びにより参上しました」


 ホヌマ殿が長老からなにか言付かる。


「チョウロウ、イッテル、オマエタチ、オニカ?」


「いや普通の人だが」


 俺たちが鬼だとすると日本人みんな鬼になってしまう。まあ令和の時代の感覚からすれば十分に鬼だけど。


「オレタチ、ツヨクナレル?」


「無論だ」


 訓練すれば誰でもとは言わんがそれなりに強くなるのは間違いない。

 俺へのよくわからない問いかけを終えてホヌマ殿と長老が何か話している。しばらくすると近くの男に話しかけ、男が出ていく。


 さらに少しして3人が連れてこられる。1人は妙齢くらいの女性で小柄だがなかなかの美人だ。もう1人はその女の付き人のような少女。そして若様よりは歳がいってそうな少年。それぞれカリン、キセ、サンチョというらしい。

 ちなみにカリンといわれた娘、彼女はなぜか俺に顔を向けては赤らめたり、かと思えば睨みつけたりなかなかの百面相だ。


「この方々は?」


「カリン、オマエ、ヨメ。キセ、ツキビト。サンチョ、トオノ、イカセル」


「は?ちょっと待ってくれ。その娘を俺に嫁がせるというのか?」


「ソウダ、アソヌマツヨイ。カリン、オマエ、コノミ、オマエ、チガウ?」


 好みかどうかでいえば見目麗しい娘だ。そりゃあドストライクだがそのカリンとか言う娘は俺が好みだというのか。鬼のようだと思っている男に嫁ぐのか。


「ところで最初にここに来た際に申し伝えたと思うが、おれは阿曽沼の家臣である大槌孫八郎得守だ」


「オーツチ?アソヌマ、ケライ?」


「そうだ。家来だ」


 ホヌマ殿が驚いたように長老と相談する。長老も一瞬険しい表情になったように見えたがすぐに元に戻る。


「チョウロウ、オーツチ、カリン、ケッコン、カマワナイ」


 断ってくるかと思ったが困ったな。こんなことは俺の一存では決められない。


「わかった。しかし俺は先ほども言ったように阿曽沼の家臣であるので、わが殿……、わかりやすくいえば俺が仕える長老のような方に許可をもらわねばならん」


 俺の言葉を長老に伝えしばらく話しているとホヌマ殿が飛び跳ねる。一体如何したのだ。こちらを見たときにはめちゃくちゃ笑顔になっている。


「オレ、オマエタチ。ツイテク」


 む、どういうことだ。通訳としてついてくると言うのか。


「オレ、チョウロウ、カワリ」


 なるほど通訳と言うこともあるのだろうが名代としての意味もあるかな。長老を見るとまるでよろしく頼むといったような表情で手を上げている。


「わかった。こうなっては仕方が無い。予定より早いが俺は一足先に帰るぞ。鯛三、貴様は予定通りここに残ってこの村を頼む。鶴次郎、貴様はこの周辺の情勢をよく調べておいてくれ」


「オレ、タノシミ」


 なんと遠野の地を見てみたかったのかな。それならしっかり堪能させねばな。


「では俺は船を見てくるか……」


 小屋を出ると周りは深い霧に包まれている。


「こんなにも霧が出るのか。これでは柵の外には出られんな」


「ウララポロ」


「ん?」


「ココ、ウララポロ」


 ホヌマ殿がつぶやいたウララポロとは何だろう?このあたりの地域の総称だろうか。


「そうか、ここはウララポロか」


「ソウダ」


 航海日誌にこの地はウララポロであると記しておこう。

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