第百九十二話 雪は教えたい
鍋倉城 阿曽沼孫四郎
「ねぇねぇ、若様~」
「どうした?今は勉強の時間だぞ」
今は大宮様が作った算学の問題を解いている。しかし演算記号がないので「今有」から始まって「問う」となり、「答曰」となるので長ったらしいし難しい問題を解くのには鬱陶しいので演算記号としてとりあえず「+」「ー」「✕」「/」「=」を提案してみた。意外なことに大宮様には驚かれたが受け入れはいい。まだ式の組み立て方などには発展していないので算数の延長上だが、いずれ数学に昇華させていきたいものだ。
「うー、つまんない……」
「雪……ほら、ぜんぜん進んでないぞ」
「うげぇ、若様いじわる……」
え……意地悪なのか。
「ところでなんで割り算の記号はこれにしたの?」
「分数と合わせやすいから。それにISOでは/にするようなってたからね」
渋々再び問題に雪が向き合うがまた筆がとまる。今度はなんか考えているようで詰まったのかな。
「そうなんだ。ところで若様この問題なんだけど……」
「ん、ああ……ここはこう、補助線引くと考えやすい」
「なるほどね」
しばらく解いていいるとカーンと鐘の音がなる。最近一郎が時計に半刻毎に鐘がなるような仕組みをつけてくれたので時間の判断がしやすくなった。
「はい、そこまで。では……若様はさすがですな。しかしここは計算違いがありますぞ」
あら一か所ケアレスミスがあったか。いかんな前世でもよくやって点数落としてたんだよな。
「雪様は、解いた問題は良いのですが、なかなか解くのに時間がかかるようですな」
「検算してたら時間がかかりすぎたわね」
雪は雪でわりと几帳面なようだ。まあ受験があるわけじゃないからそんなに急いで解く必要もないけども。
「残った問題は次回までに解いておいてください。それでは」
「大宮様、ありがとうございました」
お辞儀をし、算学の時間が終わる。
「転生しても勉強勉強で疲れちゃう。数学なんてずっとやってなかったから解き方忘れちゃった。うーねむい」
「何言ってんだ。この時代に数学ができるなんて思ってなかったんだぞ、楽しもうぜ」
「うげ……若様変態?」
え……数学が楽しいってのは変態なのか……。
「あーあ私も若様に教えたいなー」
今度はどうしたんだ。
「歴史についてはよく教えてもらってると思うけど?」
「それはそうだけどさ、もう私の知ってる歴史じゃないのも多いし」
「んーあとは食品学とかも教えてもらってるよ?」
「地味だよね。若様みたいに田んぼの改良したりとか、弥太郎さんみたいに物を作れたり得守さんみたいに船を扱えるほうが役立つじゃない」
確かに直接的には俺たちの動きは目立つしわかりやすい。しかし食品学って地味か?特に酒を作るのに雪の知識が必要だし、旨い酒ができれば十分以上に目立つと思う。それに保存食品が発達すればそれだけ飢える可能性が減少するし長期の遠征もしやすくなる。
「お酒かぁ。飲みたいの?」
「雪の作った酒は飲んでみたいな」
「ふ、ふぅん、そ、それじゃあしょうがないわね。私が美味しいお酒作ってあげるわ」
雪のモチベーションが上がったようで何よりだ。旨い酒は料理を引き立ててくれるし、皆のモチベーションの向上にも役立つだろう。
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