第百九十一話 蝦夷の戦いに巻き込まれました

寺池城 葛西政信


「ごほごほ……」


「父上、ご容態は如何でございますか」


「うむ、悪くはない。ごほっ……」


 いかんな、無理を押して遠野に行ったからか体調が思わしくない。


「やはり遠野にいかれたのが響きましたか」


「そうであろうな。このおいぼれには少し酷であったようだ。しかししばらく休めばまた動くだろう」


 冗談めかしてみたが高信の表情は晴れぬな。


「そういえば遠野には医者がおります。阿曽沼に頼んでこちらに来てもらいましょうか」


 そういえば田代三喜という医者が居ると聞いておった。周りのものを安心させるためにも、医者を連れてきてもらうよう頼む。近習が早速走って出ていく。


「ところでこの城も阿曽沼の鍋倉城に負けぬような城にしたいのう」


「ええ。あれはずいぶんと立派な城でした」


 このところ領内の武将らに不穏な動きが見られるようだ。阿曽沼の城のような立派な城があれば威厳を取り戻すことができるだろう。四層の天守とか言う大きな櫓はあれは見るものを圧倒する。さらに領主と重臣が住んでいるので何かあったときの対応も早く取れそうだ。それに城を中心に町を作りつつあるのも面白い。あれを真似た城を作りたいが武将らを城下に集められるようでなければならん。阿曽沼の如き小さな身であればできるだろうが、当家はまず石巻(葛西宗清)を倒さねばな。



ベッチャロ近郊 大槌得守


数日かかってようやく柵が出来上がった。それにしてもこっちの鎧はアザラシの革を使ったものが極少数あるのみで、長老とその側近だけしか着けていない。こちらも交易品とするほど鎧があるわけではないので、人数分の腹巻と俺と数人分の兜、あとは漆塗りの陣笠だけだ。それでもベッチャロの民からは羨ましそうな視線を感じる。


「チョウロウ、オマエタチ、ヨロイ、ホシイ」


「今回の戦が済めば進呈しよう」


 今はまず守る事が優先だ。と話をし、とりあえず理解してくれたところで、川向いのベッチャロの集落に数人の男共が入ってくると櫓から聞こえてくる。


「いよいよだな。あんたらは人を斬ったことは?」


「アル。シンパイナイ」


 少なからず実戦経験はあるようで一安心だ。柵の内側にある足場に立って見るとなるほどこちらの櫓に気がついたのか、川向いに男たちが現れて何かを言っている。


「ホヌマ殿、奴らはなんと言っているのだ?」


「サカラウヤツ、オトコハミナゴロシ」


 なんと非道……と思ったが俺らも変わらんな。


「得守様!如何しますか!?」


「ここから狙えるか?」


「任せてください」


 櫓から数本の矢が飛び、対岸の男たち数人に刺さる。


「アソヌマ、ユミ、スゴイ」


 ホヌマ殿がその場で飛び跳ねて喜ぶ。長老も手を叩いて喜んでいる。半分ほどの男たちが倒れたところで残りの奴らが逃げていく。

逃げる際にベッチャロの集落に火をかけたようで火の手が上がっている。


「とりあえずは追い払ったな。皆、ご苦労さんだが次は本隊が来るだろう。見張りは交代で休め、いつでも打って出られるようにしておけよ!」


 おう!という声がして数人の見張りを除いて皆休憩に入る。

 数人は遺体を片付ける為に川に向かう。なんでも残しておくと熊や狼がくるので良くないのだとか。対岸では手早く遺体を川に放り込み、血の跡を焼いているのが見える。


 そういえばこちらは羆か。何回か怖い事件あったから気をつけたほうがいいか。狼も聞くと時々子供がさらわれるというからなんとかしなければならんな。

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