第百八十六話 伊達に揚げ物が伝わりました
梁川城 伊達高宗
「ほぅ、そんなに立派な城であったか」
「はい。すべて石垣を組まれ、本丸には御殿と漆喰の美しい四層の塔、そして、これまた漆喰でできた塀に漆喰でできた土蔵の様なものがそびえており、おそらく櫓として使うものと思われます」
石垣に土倉の様な塔、櫓を持つ城か……。近くの川もいま堤を兼ねた石垣作りが始まっているという。これを総構えと阿曽沼では言っているようだが、これは敵に回すと厄介なやつになりそうだ。
「それと紙や陶器でよく儲かっているのか、酒は京の下り物で大変美味でございました」
余計なことを。儂だって京の酒などろくに飲めぬというのにこやつは飲んできたというのか。けしからん。
「さらに宴では油で蕪を揚げたものが出てきまして……」
「油で揚げる?」
「は。なんでも熱くした油に麦の粉をまぶした蕪を入れて作るのだそうで」
「誰ぞ、その様な食い物を知っている者は居るか?」
見回せどだれも知らぬと首を振る。
「亘理兵庫殿(亘理宗元)のいう調理法は聞いたことはないですな」
留守景宗が答える。
「詳しい調理法は聞いておるか?」
「はい。こちらに頂戴してきております」
「よし、直ちに作らせよ」
早速台所に調理法が運ばれていく。
「そして、こちらが嫡男より預かってきたものです」
行李から取り出された漆の箱をこちらによこしてくる。箱を開けるとなかなか立派な酒盃が出てくる。
「ほぉ。これはなかなか……」
内面に龍、外側に金箔の松があしらわれたなかなかな逸品だ。
「阿曽沼の嫡男はこれからも当家と縁を深めていきたいということです」
「ほうほう。なかなか童のくせに抜け目がないな。早速一献傾けるとするか!」
「はは。あと引き出物として京の酒ももらってきております。さ、まずは某が毒見をいたしましょう。……おお!旨い!」
こやつ……酒が飲みたいからと毒見を勝手に申し出てきおったわ。まあよい。
「よし、では儂も飲むか」
酒が継がれると龍が浮かんでくるようだ。
「うぅむこれはすごい……、むむ!これは美味い!」
酒もそうだが、かわらけと違い口当たりも実に良い。阿曽沼の嫡男め、このようなものをよこすとはなかなか見る目があるようだな。父上が葛西に送り込んだ叔父上(葛西宗清)は葛西の力を削ぐのには使えたが、結局跡目争いで負けておるし、稗貫に送り込んだ右衛門佐晴家は斯波に乗せられ、兵を出したかと思えば阿曽沼に負けておるし全く使い物にならぬな。
使えぬ一門など脚を引っ張るだけであてにはできぬ。それよりもこれから伸びるだろう奴らに手を伸ばしたほうが良いというもの。いまは物で誼を結んでおくか。
そんなことを考えていると揚げた蕪を乗せた皿が運ばれてくる。
「熱くなっておりますので、お気をつけください」
「毒見致します…」
毒見役の中野常陸介宗時が箸で蕪を切り、口に含む。
「むむ!これは……」
「どうした?」
「いやはや美味ですな。衣がサクッとしたかと思えば、身は熱く、溢れ出る汁は滋味に満ちております」
美味そうに食いおって……まあ毒ではないようだから儂も食うか。サクっとして熱い汁が流れ出る。
「うむ。美味い!この様な食い方があるとは……」
初めて聞く調理法ではあるがこれは美味いな。
「うむむ、阿曽沼で食べたのはもっと美味かったように思いますが、初めて作るとなれば仕方ないのでしょうか」
亘理兵庫が言うにはもっとサクッとしていたらしい。
「うーむ。庖丁番には修練するよう申し付けよ。油は必要な分は買って良い」
こういうものも修練あればこそだ。
「ははっ」
うまいものを食うためなら致し方なし。
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