第百八十五話 なぜ日本にワインが無かったんでしょうね

鍋倉城 阿曽沼孫四郎


 いちゃつきながら鍋倉城にもどる。白星は呆れたような鼻息だったが気にしない。

 それよりこれから高炉を建設するに当たり、並行して進めることを進言するため小書院に足を運ぶ。


「関所か」


「はい。今も左近ら保安局により当家の物品が漏れぬようにしておりますが、これ以上大きくなるとそれも難しくなります。ですので関を設けて、当家の物が外に流出しないようにすべきかと」


「うむ。神童の言う事は尤もだ」


 そう、紙に硝石に鉄砲、滑車弓、更には芥子に砂糖。どれもおいそれと漏らすわけにはいかない。それに関所はいざとなれば防衛線としても機能しうる。ぜひ整備したい。


「関を設けるのは良いがどこに作る?」


「はっ。まずは安俵周辺。ただしこれは街道から少し外れております故、土沢の地に関を兼ねた城を設けるのが良いかと」


 前世で言えば南部が設けた土沢城のあたりだ。ここを稗貫からの防衛線として整備したい。


「あとは浮田と達曽部に世田米の火石に釜石の石塚峠に区界峠、摂待(せったい)ですね」


「葛西や久慈との間にも設けるのか?」


「葛西様がいきなり掌を返すことは無いと思いたいですが、念には念を入れてこそです」


 とはいえ優先順位で言えば土沢と浮田であとは柵だけの簡易のものでいいだろう。


「また金がかかるな……どうする」


「とりあえずは柵を置くだけでいいかと。おいおい酒を作りますので」


「酒か……。当てはあるのか?」


「米や麦をといいたいところですが領民に食わせるために必要ですので、主に山葡萄の実を使います」


「山葡萄だと?そういえば以前貴様が持って帰ったものがあったな。あんな食えもしないものをどうするというのだと思っていたが」


 そう、去年頑張って水路を引けないはげ山に挿し木をしていったおかげでだいぶブドウ畑が広がっている。


「食えないからこそ、です。それと神様にお知恵を頂き、山葡萄から酒が造れると聞いております」


 干しぶどうにしてイーストを取り出せばパンもビールも多分造れるはず。菌種の細かい違いはしらん。


「ほぅ……それは旨いのか?」


「作ってみないことにはなんとも……。ただ明や南蛮にはある酒だということと、神様もお力添えしてくださるそうですので、試してみる価値はあるかと」


 酒好きの神様が後ろ盾についてくれるんだから心強い。ワインの作り方に関して詳しくは雪に聞かないとな。


「なあ神童、さっき麦から酒を作ると言っていたが、麦で作る酒ってどんなのだ?」


「はい。なんでも南蛮の地には麦を醸して作る麦酒なるものがあるそうです。それにはこの薬草を加えるといいそうです」


 そうして取り出したのはなぜか枕元にあったホップの苗。たしか前世の遠野もホップ栽培が盛んで日本で一番生産量が多いと聞いたことがあったな。気候的にわりと適していたのだろう。正しくはホップの実を使うのだったか。腐りやすいビールの保存性を高めてくれる効果があると雪に聞いた。苦味は強いけどIPAなんかは割りと好きだったのでぜひ作りたいな。というか酒飲みたいからってちょっと優遇し過ぎでは無いでしょうか神様。

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