第百八十七話 高炉の建設にかかります
二子城 和賀定久
「定正め……。阿曽沼なぞに寝返りおって。あやつが寝返ってから不穏な知らせが増えおったな」
手元に届いた書を見ながらひとりごちる。煤孫は落ち着いているようだが岩崎は儂が兄上の代わりに当主を名乗ったことに不満を生じているという。
不満の矛先を外に向けるため、阿曽沼を討つか……いやしかし、昨年の負け戦に加え、葛西と手を組んだことに尻込みする者も多い。であれば当家と同じく家中の揺れている稗貫を討つか。定正がいなくなったことで稗貫の奴らも出てくるかもしれん。あとは根子のあたりはけしかければ稗貫に歯向かってくれるかもしれん。なんなら阿曽沼に媚を売って兵を出させるのもよい。
「誰ぞあるか」
近習を呼び、評定を行うため各武将を集める。
◇
花巻城 稗貫右衛門佐晴家
「殿、葛西は帰りましたが如何なさいますか」
評定の間では厳しい顔をした武将たちが額を合わせている。
「それだが……阿曽沼は安俵の地に柵を作り始めたのだな」
「はい。丸太を組んだだけのものですが」
安俵城から少し花巻寄りの高台の木を切り、柵を設けたとの知らせを受けている。
「であれば今年は阿曽沼から仕掛けてくることもあるまい」
「……確かに。昨年は葛西の内乱の手伝い戦に閉伊郡の征圧、さらには我らが仕掛けた戦と立て続けでしたからな」
「うむ、そうだ。なので我らの当面の敵は揺れている和賀と不穏な動きを見せておる、根子の奴らよ」
根子の居る、根子上館は和賀の国人である轟木と隣接しており、どうやらお互い怪しい人の動きが見られている。
「和賀は当主の弟である成鳥小四郎(和賀定久)が奪い取ったが、やり口に反発しているものも居るようだ」
その筆頭である関口小五郎(和賀定正)は阿曽沼に降りたそうだが。それ以外も煤孫は動きが読めぬようだし沢内太田も我関せずと傍観を決め込んでいるようだ。
「まずは関口を取り返しては如何でしょうか」
亀ヶ森図所が提案してくる。
「ふむ、そうだな。まずは関口を取り返すか」
おそらくこちらが動けば和賀もしくは根子が動くだろう。さてどう対峙してやろうか。
「ところで斯波から阿曽沼攻めの兵を出せと触れが来ておりますが、こちらは如何しますか」
折角意気軒昂となっているところに斯波からの触れの話が出て水を差される。
「領内に不穏な動きがあるため出せぬと言っておけ。斯波の口車にはもう乗らぬ。」
◇
橋野青ノ木川上流 阿曽沼孫四郎
「ここに高炉を組むのか」
険しい山に囲まれた中のわずかにならした土地に高炉を組む。すでに鞴用の木枠の水路と水車は設置され動きは良好である。あくまでここは試験用の高炉。うまくいくようなら釜石に大きな高炉あるいは改良した高炉を組んでいくようにしよう。
遠野側に作ると鉱毒が起きかねないし、田畑の少ない釜石に製鉄所を設けた方が雇用創出にもなれば石炭の搬入なども便利だろうし。
「岩を切り出してきております。これを外側、高温になる内側に耐火煉瓦を組んでいきます」
まず掘り下げて砂利や岩などで地盤改良を行っていく。
「高炉が出来上がるのに何日くらいかかる?」
「地盤が安定するのに数日掛かりますな。そこから高炉自体は十日もあればなんとかなるでしょう。さらに通気の確認、雨が入らないように高殿の建設、投入用の階段の設置などがあるのですべて終わるのには少なくとも二、三ヶ月は頂きたいですな」
「そんなに早いのか」
「もう事前にものは揃えてますから。あとは組み立てるだけですのでそこまでかかりません」
むしろ本番は火を入れてからだという高炉の形もおぼろげに知っているだけでしかなく、燃料の木炭もどの程度入れればいいかは手探り状態。まともに銑鉄が得られない可能性が高く、何度か作り直すことになるだろうとのことだ。このあたりは明の技術が手に入ればいいのだがな。
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