第百八十話 箱フイゴの改良

鍋倉城 阿曽沼孫四郎


「ふぅ寒い寒い……」


 すっかり雪化粧の遠野郷を見る。城は山の上なので風が遮られずより一層冷たく感じる。


「若様、その様な軟弱な言葉を吐いてはなりませぬぞ」


 清之が木刀で素振りをしながらたしなめてくる。身体を動かせば温まるのはそれはそうなので、俺も素振りを行う。素振りをしながら町を見れば、西側に新しく学校となる建物が建てられ始めている。


「そういえば若様、学校なるものはどのようなものなのでしょう。以前に読み書き算術をやると仰っておられましたが」


「ん、ああ、まずは仮名の読み書きと数の概念を覚え、計算ができるようになること、それと雪や俺がやっていたような身体の動かし方を覚えること、それと乱暴狼藉を働かぬように教え込むことだな」


 戦場で乱暴狼藉を働かれるとその後の人心掌握に支障をきたすのでな。それにこれから大きくなっていけば不正を働くものも出てくるであろう。あまり不正が大きくなると国の発展を阻害してしまうので綱紀を正していかねばならない。


「それはどれくらいの期間行うのですか?」


「まずは四年だな」


「結構かかりますな」


「それだけ大事なことだ」


「皆が若様ほど聡明であればこれほど時間はかかりませんでしょう」


「何をいうか今も俺は知らぬことだらけよ」


 そもそも前世で十五年以上教育受けてるんだよな……。それでも社会に出れば知らないことのオンパレードで学ぶことを諦めると負け組になってしまうような社会だったな。この時代に来ても学ぶことだらけでとてもつらいが、やった分だけ目に見えて社会が変わっていくので面白い時代でもあるな。


「最初の四年を小学校と名付け、小学校を教えられる者の養成を増やす」


「増えるとどうなるので?」


「領内各地に小学校を作りすべての童に学を与える」


「女児にもですか?」


「無論だ。優秀なものは男女問わず取り立てねば人の数でおとる我らが成り上がるなど無理なことだ」


 入学は六歳以上にしておくか。最終的に初等教育は六年に持っていきたいが、教えられる者がいないからなあ。とりあえず小学校を修了したものを対象に初等師範学校なるものでも作って教員を確保できたら義務教育としよう。……できるかな。



遠野先進技術研究所 水野工部大輔弥太郎


「工部大輔様、これでいいでしょうか」


 番匠が問いかけてくる。俺が役職名持ちになってからはちょっと距離を感じてしまう。……といまは箱フイゴの開発だったな。


「少し動かしてくれんか」


 いうと取手を持って押し引きする。一番下部の孔から空気が出てくるが、板が擦れるときに音がなるのと何回もやっていると摩擦でだんだん熱を持ってくる。油を塗ってみたがあまり変わりはない。


「この擦れると熱くなるのは良くないな」


「これを着けてはどうでしょう」


 そう言って番匠の一人が見せるのは毛皮。これは狸か。なんでもいいから手に入る素材を使ってみるしかない。


「よし! 鞴を動かしてくれ!」


 木が擦れる音が格段に小さくなった。なめらかに動き、また、いくらか動かして板を取り出しても熱は大したことはない。


「思ったより良いな……よし、これを採用しよう」


 とりあえずはこれでいいだろう。いずれスクリューファンを使えれば高炉の設計自由度も上がるだろうが、プロペラの研究もしなきゃならん。やることが多すぎて一人ではもうどうにもならんな。はやく学校を作ってもらって技術者の卵を量産してもらわねば。

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