第百六十二話 安俵へ使者を送ります
そこからは細かな内容になっていく。
「さてまず、毒沢義政と浮田佐兵衛が我らに降りた」
「そういえば先程も言っておられたな。毒沢といえば和賀の庶流ではないか。まことなのか?」
守儀叔父上が思わず声を上げる。
「間違いない。我らの戦に途中から味方として割って入って来たわ」
父上ではなく、守綱叔父上がカラカラと笑いながら守儀叔父上に応じる。
「うむ。それで此度花巻を目指すことになるでな、毒沢館をその拠点とする」
「まずは安俵城か。あそこは確か和賀四天王である小原某が居ったような。毒沢殿、なにかご存知のことはござらぬか」
そう言われ、末席に現れたのは毒沢義政と浮田佐兵衛である。
「某が毒沢民部義政と申しまする。此度は我が申し出を快くお受け入れいただきました殿に感謝申し上げまする。して、安俵小原でしたな。あそこは稗貫への抑えとしてありましたが、我らが降った事により孤立してしまいました。もしかしたら此度の戦の結果で降るかもしれませぬ」
戦わずして降ってくれるならありがたい。
「ふむ。確かにな。であれば毒沢、そなたを使いとする。そなたが戻ってくるまでの間、そなたの嫡子をここに連れてこい」
「はっ。はは!」
裏切りなど茶飯事なこの時代だ、人質はしっかり得ておかねばならないのだろう。人質がいようと気にしない者も居るのだろうけども。
毒沢義政が退室する。
「さて、論功はすべてが終わってからじゃ。工部大輔、先日の大砲は随分な威力だったな。儂も少し驚いたぞ」
千徳城で砲撃を見ていただけあって、少し慣れたのかな?
「次の戦でも大砲を使いたいのだが、能うか?」
「はっ。罅などは入っておりませんのでまだ発射可能です」
「千徳で使ったものは使用できるか?」
「あれは罅が入りましたので、使う事ができません。また鉄砲生産と今回の戦に用意した大砲に人手を割いたため、新しいのもございません」
千徳で使った砲は鍛造砲で製造に時間がかかるとか。一方で今回使った臼砲は鋳造なので製造自体は可能だが、材料となる銅も錫も不足しているので二門目以降が生産できないという。錫鉱山は東北にはないので明延から買うか、明から買うかになってくる。
今まで保安局を使ってコツコツ色んなところから買い集めた錫で一門ならなんとか青銅砲を作れたが新造は無理という。
「ないものは仕方がない。あるもので戦うしかないの」
父上が少し残念そうに言う。北海道と樺太を確保して三丹交易で資源輸入するか。それにしてもすぐには動けないが。
「というわけで、城攻めにいくらか大砲の助力は得られるようだ。して孫四郎、棒火矢はいくらかあるのか?」
「棒火矢でしたら百ほどございますので、明日にでも持ってまいります」
「うむ。江繋ではあれがよく効いた。今回も使いたいのでな頼む」
「父上は安俵小原とやらが降りないとお考えで?」
「うむ。今回の戦で敗れたとは言え和賀は六万石ほどある。如何に新しい武具が我らにあろうと、雑兵を集めれば我らに後れを取るとは思っておらぬだろう」
元々の国力差の問題か。たしかに我らはようやく一万石を超えたくらい。今回は待ち伏せされたこともあって我らが勝ったが、正面切って戦えば数の差に押し切られるだろう。
全く、殖産興業してからという俺の予定が狂いまくりだ。
翌日毒沢の嫡男、彦次郎丸が宮守館に連れてこられる。
「ほれ彦次郎丸、挨拶をせよ」
「毒沢民部義政が嫡男、彦次郎丸でございます」
深々と頭を下げた子供は俺と同じくらいの歳に見える。
「うむ。して彦次郎丸、そなたは幾つだ」
「はっ。八つでございます」
俺の一つ上か。少し父上が質問を続けたかと思うと俺の方に向く。
「彦次郎丸は孫四郎に預ける」
「孫四郎様、よろしくお願いします」
「うむ。孫四郎だ。よろしく頼む」
無茶振りではないですか父上。
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