第百六十一話 評定

宮守館 阿曽沼孫四郎


「揃ったか」


 評定に集まった者達は皆目つきが爛々としている。


「鳴沢館の佐々木主税は残念であったが、またあっぱれであった」


 佐々木主税は守綱叔父上の囮部隊に参加し、激しい追撃の足止めで戦死している。


「はっ兄上、彼奴は実に勇猛果敢でありましたぞ」


 実際周りのものが倒れたあとも一人気勢をあげ、最後は槍が三方から刺さるという壮絶なものだったと聞いている。


「主税にかぎらず此度の戦の落とし前をつけねばならぬ」


 一旦父上が言葉を区切るといよいよ評定の間の空気が熱くなる。


「反攻しようと思うが、皆の意見も聴きたい」


 父上の言葉に獰猛な評定の武将らが次々に口を開く。


「無論、異議ございませぬ!」


「この勝ち戦に乗じて高水寺城を落としてやりましょうぞ!」


 もちろん皆、攻め入るのに異議は無いようだ。


「ちょっちょ、兄上待ってくれ。皆も少し落ち着け」


 そこに水を注してきたのは守儀叔父上。


「兄上、わざわざ聞くということは、こちらもかなり手酷いことになっているのであろう?葬儀も見たが、あれだけ死んで高水寺城を落とせるのか?」


 守儀叔父上の言葉に守綱叔父上が反応する。


「そんなに死んでいるのか?兄上どれだけ死んだのだ?」


「凡そ二百といったところだ」


 父上より告げられた死者数に皆衝撃を受ける。死者はそのまま生産力が減少したことを意味する。


「なんと……そんなにか。しかし兄上、ここで打って出なければ我らは徐々に衰退し、周辺の大名に攻められるだけではないか?」


 守綱叔父上がうなりながらも、攻勢に出るべきと主張する。増えたとは言え生産力に乏しい我らは打って出なければジリ貧になるだけだというのも確かか。守綱叔父上の言葉に父上が頷く。


「攻めるとすれば、一つは大迫から亀ヶ森に攻め込む。もう一つは花巻を攻め込むのが妥当だと考えておる」


 大迫なら達曽部から大迫城を通り、亀ヶ森城から御所ケ館、新堀城(にいぼりじょう)を落として高水寺城への拠点にするというもの。

 一方で花巻ならこちらに降りた毒沢の領地を通り安俵城(あひょうじょう)、花巻城の支城となっている本館(もとだて)を落とし、花巻城攻略に腰を据えるというもの。


 どちらもそう悪くはない。評定の武将らも各々どちらが良いか喧々諤々となっている。


「孫四郎よ、そなたはどう思う」


「私の意見を述べてよいのですか?」


「神童であり、嫡男であるからな」


「そうですね。大迫に行くならば高水寺城を落とせないにしてもその喉元に刃を突きつけられるというのは、大変魅力的です」


 高水寺城攻略を推していた武将らがウンウンとうなずく。


「一方で、花巻方面へと向かい、北上川を超えられないとしてもその周囲は農地としての潜在的な魅力に溢れております。灌漑が必要ではありますが、五万石を狙える土地と成りましょう」


 五万石、という言葉を聞いて武将らが息を呑む。五万石まで石高が増やせれば取れる選択肢が飛躍的に増える。灌漑が行き渡るまでは麦や豆になるがそれでも広い平野を得られるのだ。食い物は格段に増え、味噌も豆腐もビールも作れるようになるだろう。


「したがって、私としましてはまず安俵を奪い、民を養い、然る後に花巻城や高水寺城を攻め落とせば良いと考えまする」


 結局俺の意見が決め手となり花巻を目指して進軍することとなった。

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