第百五十三話 準備万端です
鍋倉城 阿曽沼孫四郎
稲刈りが始まる。そろそろ斯波が攻めてくる頃だろう。最低限の警備以外、動員できる人員を持って全力で稲刈りを済ませる。もちろん俺たちも手伝ったさ。猫の手も借りたい状態だったからな。
「稲刈り機が足りませぬな」
「清之か。こればかりはしかたがない。それでも手に手に鎌をもって集まってくれたお陰で稲刈りがいつもより随分早く終わった」
「これで山背が吹かなかったらどれだけ良かったことか」
全くだ。山背のお陰で刈り取りは早く終わったものの、昨年の半分ほどしか収穫がない。今までだったら領民のいくらかが餓死していたことだろう。
「ところで羽州は山背が吹かぬらしい」
「そうなのですか。それは実にいいですな」
「代わりに雪がこちらの比ではないそうだが」
「うむむ、それは困りましたな」
「父様、雪の何が困るんですか~?」
雪が冗談で突っ込みを入れる。
「な、雪は目に入れても痛くないぞ!」
「ふふっ、父様、ありがとう」
にひひっと雪が笑う。実に可愛らしいその姿に清之が悶絶している。
「ところでお春さんは戦に出られないことは大丈夫だったか」
そう、殺る気満々だったお春さんだが、先日お春さんの妊娠が発覚した。数日前から嘔気が出てきてつわりかなと思ったところ、たまたま帰郷したばかりの三喜殿が診察し、まず妊娠であろうとのことだ。
「戦に出られなくなったのは残念がってたけど、そこまで気落ちはしてなかったかな」
雪がこういうのなら多分大丈夫だろう。ちなみにお春さんだけでなく、ここ数年食糧事情が改善したことを受けてちょっとしたベビーブームになりつつある。
「この戦で負ければどうなるか皆よく存じております故、実によく動いておりまする」
自分たちの生まれ育った土地を守るという、根源的な意識から士気は高い。最近移住してきた者達も今の生活を脅かされないよう、守る為の意識が高い。
「兵の中に間者が紛れてはおらぬな?」
「保安局もよく調べておるようで、今のところそれらしき者はおらぬようです」
左近は最近、兵に間者が紛れていないかの内偵に忙殺されているようである。保安局も人員が足りないな。
「ところで若様、食料は保つのでしょうか?」
「うむ。葛屋のおかげでなんとかなりそうだ」
葛屋が足繁く塩竃まで行ってくれているおかげでなんとか食いつなげそうである。来春には百石積みの船ができる予定でさらに遠方まで商いに出られるだろう。そうなれば米だけでなくいろいろな食料が手に入り、さらに飢餓の恐れが少なくなるだろう。まあかわりに証文の束が積み重なっているのだが。
北にはスクーナー、南には在来船の改良型である弁財船に似た船を作っていく予定だ。もし興味を持つ者が居たら弁財船擬きは輸出しても良いかもな。
「しかしまた此度の戦でだいぶ火薬を使い果たしそうだな」
「若様もっと作れないの?」
「むずかしいな。牛馬に加えて兎も飼育が進んできたので去年よりは増えたが、それでも冬の間に作れないからな」
建物の気密性が悪いこともありなかなか冬季の室温が保てず発酵が進まないのだ。
「となりに囲炉裏を作れたら良いんだけどね」
「そうすると今度は火事の恐れが出るからなぁ」
何事も一筋縄ではいかないものだ。
「難しいですな」
「本当にな」
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