第百五十一話 斯波への対策が始まりました
その日から領内各地で兵の選抜と訓練が開始される。一番の肝は守綱率いる囮部隊。もちろん退いてきた部隊と連携を取る必要があるので他の部隊にも高い練度が要求される。
「そら、いまだ!」
掛け声とともに淡竹を尖らせただけの竹槍を持った民がわら人形に刺突する。
胴丸も腹巻も全く足りないので大半は防具なしとなる。
「随分と数が多いな。何人居るのだ?」
「此度のことを話しすると翁たちはもちろん、女子供も戦に参加したいと言ってきており……千ほどになっております」
「皆随分と慕ってくれているようで嬉しい限りだ。しかし武具も防具も全く足りんな」
ここ数年の善政を評価されたのはありがたい。食料はなんとか冬や春窮を越えられるようになり、道も良くなり商いも盛んになってきた。ここで他家になろうものならどんなことになるかわからないといったのが心情のようだ。しかし傷痍が多くなってしまうかもしれん。やむを得ないが、障害が出てしまったものには何かしらの補償ができるようにしたいな。
戦の後はいくらか収穫に影響しそうだな。
「左近も領内で宣伝活動してくれているおかげというのもあるだろうな」
実際山伏や商人に扮した者たちが領内の各地で説いてくれたようで領民の受けはかなり良いようだ。流石に女子供も戦に参加するとは思っていなかったが。
「女子供を戦場に出すわけには参りませぬが、輜重や飯炊きに陣地構築くらいならなんとかなるでしょう」
宮守や達曽部の老人や子供たちが陣地構築に出ているらしい。明日には綾織や附馬牛に小友、松崎から、明後日以降はそれ以外の村からも応援がくるだろう。作業は達曽部に壕を構築することと、想定主戦場である吉金から関谷の斜面と平行に塹壕を掘って陣地構築を行う予定だ。ついでにせっかくなので宮守川の浚渫と護岸工事を行ってしまえば渡渉しにくくなり、洪水対策にもなるな。川岸には葦(よし)や薄(すすき)を植えておけば色々使えて良いな。
◇
達曽部
大迫との境界にほど近い達曽部村は山口の谷地に塹壕に兼用する空壕掘りが始まろうとしていた。
「まさか斯波の殿様が攻めてくるとはなぁ」
「勝てるのだろうか?」
「勝てなかったらどうなるんじゃ?」
「しらんのか?昔みたいにひもじくなる」
「そらいかん」
そうじゃそうじゃと冗談を交えながら村民たちが作業準備を進める。手に手に鍬や踏み鋤などを持って集まっている。
「皆の衆!この戦は儂等だけでなく、そなたら民にとっても大事な戦になる。壕掘りよろしく頼むぞ」
「へへ、宮守様、お任せくだせぇ。この戦が終わったらこの壕から水が引けるようになりますんで、このあたりも米が作れるようになりますで」
「そなたらもなかなか肝が据わっておるな。それとな、殿様が馬を貸してくださった。馬が土を起こすからそなたらは土を掻い出せ」
早速馬に鋤が着けられ、土が掘り起こされていく。出てきた残土は叺(かます)に入れ壕の遠野方の縁に積み上げられていく。数日で壕と背丈を超える築堤が出来上がる。
「これだけの土塁なればそうそう斯波も越えられまい」
「話に聞きます、蒙古の襲来のようですなぁ」
「数はまるで違うがな」
達曽部に壕といくつかの土塁と柵の構築が完了し、村民は吉金から関谷にかけての長い陣地構築の増援に異動していく。一方、鱒沢守綱率いる囮部隊の訓練とその連携訓練が開始されることとなる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます