第百四十七話 中央集権への布石
横田城 阿曽沼孫四郎
縄を打たれた武将を連れて遠野に凱旋してくる。行きとは異なり父上や孫八郎が本隊と一緒だ。
「おかえりなさいませ」
「うむ。早速だが評定を行う。そなたも来るか?」
もちろん経過を聞きたいので評定の間に向かう。
評定の間にはすでに武将と、弥太郎も座っている。俺は父上から見て左手、一番前に腰を下ろす。
「では先の戦の論功を行う。まず大槌得守、そなた初陣でありながら一番槍を努め、挙げく一戸政明を捕え、甚だ功、大なり。よって千徳の地をそなたに預ける」
「ははぁ。ありがたく存じます」
初陣で一番槍で敵将捕縛だと。まさかそんな大手柄を立てるとは孫八郎は戦上手か。
「続いて、水野工部大輔弥太郎。そなた大筒にて城門を破り、千徳城落城せしめた功、誠にあっぱれである。よって大槌をそなたに預けよう」
おお。弥太郎も遂に領地持ちか。しかし研究所をどうするか。
「殿、大変ありがたく存じます。ただ某は新しきものを作れればそれで良うございます故、所領は必要ございませぬ」
評定の間が静まり返る。この時代恩賞は基本的に所領であり、断られるとは思ってもいなかった様子。
「う、うむそうか。ではそなたの研究所の扶持を増やすこととしよう」
結局研究所への扶持が加増されることとなり、孫八郎の領地は大槌に千徳を追加という形になった。また、旧南部領の将たちをうまくまとめたとして小国彦十郎忠直に山田村が与えられた。
「外様といえど活躍すれば、小国のように所領を加増させる。皆も励むようにな」
皆が平伏し論功行賞が終了する。
◇
評定を終えたので弥太郎を捕まえる・
「弥太郎よ、良かったのか?」
論功行賞を終え、各自解散となったところで弥太郎に声をかける。
「何がでございますか?」
「いや、所領のことだが」
「そのことでございますか。所領を頂いても、領地管理などしていたら研究の邪魔ですので」
それでいいのか……。まあ本人が納得しているなら良いか。
「ところで大砲を撃ったそうだな」
「はい。精度に難有りでしたが」
「俺は見てないのだが?」
「実戦に勝る試験はありません故」
弥太郎はさも当然といった風に返答する。
「発砲を見たいのだが」
「発砲後の確認がありますので、直ぐにはできませぬ」
ぐぬぬ……。まあいい見る機会はこれからいくらでもできるだろう。
「ところで孫八郎…ではなかったな得守よ、そなた一番槍だったのか」
「ははは。工部大輔殿が大砲の音に敵も味方も腰を抜かしておりましたからな。初陣で一番槍の名誉は実に簡単でございました」
大砲の発砲音で腰を抜かしたか。発砲音に慣れて貰うことも必要だな。
「しかし、工部大輔殿が所領を拒否されたのには驚きました」
そういえば得守は半分この時代の人間だったな。
「そういう考えもあるのかと、まさに青天の霹靂でございました。私も今から返上したいくらいです」
「それは遠洋航海を見据えたことか?」
「それもございます。が、一番はやはり面倒なのです」
「そうはいっても一定の地位にあるものはそれなりに書類仕事がでるであろ?」
書類仕事が面倒なのはその通りだがなくせるわけでもない。
「それに徴兵に関しては今後徴兵官を設けるので、歳入処理くらいであろう」
「んーそれなのですが、一度所領内の税はすべて主家に集めて、集中投資できるようにした方が良いのでは無いでしょうか?」
それは確かにそうだ。資本を集めて集中投資した方が開発速度はあがるが、なんか小声でめんどくさいしと聞こえた気がしたのは気のせいと言うことにしておこう。
「それは確かにそうだが、皆が納得せんだろう」
直ぐには難しいな。だが必要なことだろうし少しずつやるしかないか。
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