第百三十六話 遠野への帰還

 これ以上長居しても仕方がないのでさっさと遠野への帰路につく。帰りは近江で牛を買い、上洛の途中に寄った寺で孤児を身請けし遠野へと戻る。遠野に着いたときにはすっかり盛夏になっていた。


「はあえらい遠いわぁ」


「せやからそなたは京に残っとれ言うたやないか」


「いやどす!あんたさんだけいい目を見よなんてそうはいかんで」


 大宮様夫妻が何度目かわからない罵り合いをしている。元気なもんだ。そうこうしているうちに五輪峠に近づく。


「それでは若様、某は一足先に我らの帰還を伝えてまいります」


 言うや清之が軽い足取りで遠野領へと駆けていく。


「ふうん、田舎や聞いてましたけどほんまにえらい田舎どすな」


 あけすけに言ってくれるじゃないか。本当のことだから仕方がないけど、少し悔しい。何時か京を越える大都市にしてくれる。

 宮守からは川沿いに歩く。


「随分と整った田畑ですな」


 少しずつ区画整理を進めているおかげで少しずつ四角い田畑が増えてきた。もちろんまだまだ不整形な田畑のほうが圧倒的に多いけども。

 日影の登り窯が増えたようだ。立ち昇る煙が以前より一筋多い。順調に拡張されているようで何より。日影を抜け鍋倉山がようやく見えてくる。


「あれまあ、えらい立派な城やな」


 総石垣造りに天守閣を備える織豊様式を先取りした城がみえる。どうやら今は漆喰を塗りつけ、瓦止めも漆喰で行って居るためだいたい真っ白な姿を見せている。


「これで白鷺城の名は我らのものだな。ふふふ」


 姫路城のような連立式天守ではないけどね。


「ほんまえらい綺麗な」


 大宮様も流石に声にならないようだ。正直ここまで綺麗になるとは思わなかった。姫路城に比べればだいぶサイズで負けているけど今後拡張するって事で将来性に期待して貰おう。


「なあ童はん、城にあんな立派な楼閣、必要なん?」


「あれはですね、我らがあの場にいることを示すためのものであると同時に遠くまで見渡せますので、戦の際に便利なのです」


 そう、これからは交戦距離が徐々に伸びていくのでな。観測所としても必要になる。その分標的になってしまうが。まだ本丸御殿はできておらず城を移していないので横田城へ向かう。


「ただいま戻りました」


「うむ。ご苦労だったな。まずは身体を休めよ。大宮様とご一緒されているのは奥方様でしょうか?」


「へぇ。清子と申します。よろしゅうたのんます」


 はんなりとした身なりでお辞儀される。京女の精錬された動きに父上はすっかりのぼせているようだ。


「殿?どうかなされましたか?」


 その父上を満面の笑みで眺める母上。笑顔のはずなのにそこはかとなく冷気を感じる。


「い、いや何でも無い。それよりも大宮様も今日は風呂を用意しました故、旅の疲れを流してくだされ」


 母上の表情が怖いのでそそくさと退室する。何はともあれ風呂だ風呂。風呂は心の洗濯さ。

 風呂と言ってもサウナだが。お湯を張る燃料が足りないんだよね。今年はかなり涼しいが、夏なので川で水浴びして済ませたり汲んだ水を湧かしてぼろきれで身体を拭いたりがせいぜい

 早く化石燃料を使えるようにして湯船に浸かりたいな。

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