第百十六話 日本の中世って装飾品少ないですよね
遠野の山中 阿曽沼孫四郎
「禿山が増えてきたな」
「木は植えておるのですが、追いつきませんな」
「成長の早い松なんぞはたくさん欲しいが、薪になる楢や栃の木なども一緒に植えれば松を切るまでに実も得られたりするかも知れんぞ」
ふとなにかで針葉樹と広葉樹を混ぜて植樹すると比較的速く育つと聞いたのを思い出す。ついでに板屋楓なんか植えて樹液が採れればなお良い。あれはメープルシロップになるし。
「ふぅーむ。とりあえず木を植えるときはいろんな苗を植えようということですな」
「そういうことだ。松なら松、杉なら杉だけなどとなっておるのを色々混ぜたものと比較してみるのは良いかもしれん」
「ただ、結果がわかる頃には我らは死んでるかもしれませんな。」
「年老いやすく学成りがたしってやつだな」
「翰林五鳳集ですな。しかしその使い方は間違っておりますぞ。今日の学問はまず翰林五鳳集の復習にいたしましょう。」
少年老い易く学成り難しとは、若いうちに余裕ぶっこいてると年取ってから苦労するから、若いうちに頑張ろうねって言葉だそうだ。他の解釈もあり、少年とは稚児のことで、要は男色と学問は若いうちが良いという滑稽詩文だという。男色には興味ないけどな。
◇
「そういえば算盤の使い方はだいぶ慣れただろうか」
「葛屋の番頭に渡していた計算に使う道具ですな」
「うむ。少し寄ってみるか」
ちょうど詩文の講義が終わったので気分転換も兼ねて葛屋改め遠野商会に赴こうと準備していると。
「あれ若様どこに行くの?」
「ん?ああ遠野商会に行こうかと」
「え、じゃあ私もー!」
「え、あの?」
なぜだかお春さんと母上も着替えて出てくる。
「なにか良いものがあると良いわね」
買い物に行くんじゃないんですが、まあいいか。
◇
そんなこんなで遠野商会に来たわけだが、主な反物はもうなく簪や櫛などの小物がある程度だ。葛屋はとりあえず石巻まで商いする準備で大槌に出張している。
もう少し大船が用意できれば十三湊(とさみなと)経由で上方との商いもできるだろう。そうすれば質の良い上方の反物が定期的に手に入るようになるし、商売のあがりも増える。太平洋は現代でも時々房総沖や紀州沖で座礁してるくらい航海の難所だからあまり主力にしたくはないのだよね。
話がそれた。遠野商会の座敷で母上らが物色している間に田助を呼んで算盤について話を聞くことにする。
「おまたせいたしました」
「うむ、忙しいところすまんな」
「滅相もございません。して算盤の扱いについて、でございましたか」
聞けばだいぶ慣れたようで、今は遠野商会の他の従業員に算盤の扱いを教えているらしい。
「この算盤をいくつかご用意いただきましたおかげで、だいぶ帳簿付けが楽になりましてございます」
「なれば重畳。そなたに余裕があれば当家の帳簿付けもしくは当家のものに算盤を教えてやってくれぬか」
「それは私の一存では決めかねます故、主が戻りましたら相談してみます」
急ぎではないのでその件はそれでよい。高度人材はいくらでも欲しいし、唾つけときたかっただけだからね。
帳簿付けができるようになれば複式簿記を導入させて会計の客観性を上げていければ良いな、とそんなことを考えながら母上らの居る座敷に行く。
「あら孫四郎もどってきたのね。この櫛はどうかしら?」
「よくお似合いで」
「若様ー。これどう?」
「いい簪だね。雪の可愛さが引き立てられるよ」
「えへへぇ」
母上が少し不満そうだが、褒めてほしければ父上が帰ってきたら褒めてもらってください。
「あなた、これはどうかしら」
「おお、お春よう似合っておるが、懐に余裕はないぞ」
「皆様ならツケにさせていただいてもようございますよ」
奥から出てきた田助が声をかけてくる。清之が渋い顔になるのと対照的に三者三様えらい喜びぶりだ。しかし雪は現代人の意識があるのにこの時代の装飾も好きなんだな。まあ確かに綺麗だしできるものもこんなものだろうし。
「ねえ若様、指輪とか腕輪とかはつくらないの?」
「そうだね。そういうのも今後は拵えてみようか」
明とか南蛮貿易、それにアイヌ交易でも使えそうだしな。
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