第百十二話 水樋すると粘土の質が均質化するそうです
「ふぅん、当世具足みたいなのを作るのね?」
雪に話してみると意外な返事がきた。
「当世具足?」
「戦国時代、大規模な戦闘が繰り返し起こるようになったのと鉄砲が入ってきて、安くて簡単で防御力の高い鎧が求められたのよ」
なんでも今主流の大鎧や胴丸、腹巻は小札と言う鉄板を紐で止めていく形で量産が難しい一点物だそうだ。一方で当世具足は横一列あるいは全体を一枚の板で作り上げるので構造が簡素になり、量産が利く上、鉄が多用されるようになったので防御力が向上しているものだそうだ。もっとも量産性は高くなっても鉄が高価なので足軽までは回らなかったようだけど。
製造しやすくなったおかげでいろんなデザインの鎧が作られるようになり、仁王胴具足のようなものや南蛮胴なども当世具足に含まれるとのことだ。
「なるほど、それじゃあ部隊ごとにデザインを統一できるってことか」
「うん?まあそうね」
となれば基本的な備えは体格に合わせて数種類用意して、指揮官クラスは個人の専用装備を許すようにしようか。
「ああ、赤備えみたいな形で全員同じ甲冑を貸与しようかと思ってね」
「軍服みたいな感じ?」
「まあ、そうかな」
「色はどうするの?」
「色は色で材料工学になるのかな?優先順位は低いけど、高く売れるものとかできるかも知れないから、いずれ手をつけるさ」
和賀に行けば赤鉄鉱があるから赤色は作れるのよな。和賀氏を倒さないといけないが。
「そろいの甲冑にするなら練度もなるべく揃えた方が良いんじゃ無いの?」
「まぁね。でも一度にあれもこれも出来るほど人口がいないから、それもそのうちだね。俺が元服して、家督を継いだらそう言ったのも進められるさ」
「宇夫方様なら喜んでやってくれそうだけどね」
まあ守儀叔父上ならそうかも知れないし、そうでないかも知れない。それはそうとぼちぼち登り窯が落ち着いてきたらしいので、煉瓦作りするよう口出ししてこようかな。
「久しぶりに登り窯を観に行くか」
「お、いいね。私もいくー」
「と言うわけだから左近、警護よろしくね」
「御意」
どこからともなく声が聞こえる。
◇
渋る清之を説き伏せて綾織にやってきたわけだ。清之は俺の傅役なので今回の戦は留守番だが、その留守番中の取り仕切りが必要になり暇では無い。
「若様、儂とて暇ではないのですぞ」
「わかって居る。だから警護は左近だけで良いと申したであろう」
「保安頭の腕前は存じておりますが、手に余る事態もあるでしょうに」
そんな清之の小言を聞きながら窯元の右近を訪ねる。
「右近や、おるか」
清之がどんどんと戸を叩き、入っていく。小屋の中にはそこかしこに数種類の粘土が置かれているが、右近の姿が見えない。小屋の裏に行くと砕いた土を桶に流し込んでいる右近が居る。
「おおこっちにおったか」
ようやく俺たちに気がついた右近がひれ伏す。
「あーよいよい。そんな堅苦しくしなくて良い。今は何をしておったのだ?」
土を砕いて水に溶かし、浮いてきたゴミを取り除く作業だという。なんでもこれをした方が安定した焼き方になると言う。
「はーそんな方法があるのだな」
「はい。と言いましても、たまたま嵐で水浸しになった土が焼きやすかったというものです」
まあそんなものか。
「小屋に置いてあった土は?」
「あれはしばらく置いておいた方がこねやすくなります故、あのようにしておるのです」
なるほど、それは知らなかった。まだ始めたばかりなのでどれくらいの時間が最善かは今調べているところと言う。
「それはそうと若様が希望なさっていた煉瓦なるものですが、丁度試しに焼いたものがありますので少々お待ちください」
そういって別の小屋から保ってきたのは色味の薄い煉瓦だ。
「結構重いな」
ずっしりとした重みを感じる。
「若様のご希望通り幅七寸、奥行き三寸半、高さ二寸で作っております」
「これはどれくらい熱に耐える?」
「耐える熱はわかりかねます」
まあ実際に使ってみて判断しよう。とりあえず同じ大きさのものを沢山作って貰うよう指示しておく。
「若様、これで何ができるのです?」
「それは今後のお楽しみって奴だ」
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