第百十一話 甲子革令というものがあるそうです
横田城 阿曽沼孫四郎
弥生になって、どうやら甲子革命とかいうもので文亀から永正に改元されたというのが耳に入った。
「のう清之、甲子革命とはなんだ?」
「甲子革令でございますか」
清之の説明によると甲子に四年先立つ辛酉および庚申が金の気、つまり冷酷さが強まるとされている。なかでも辛も酉も金の気であり相乗効果で説くに人の心が冷酷になりやすく天命が改まる、つまり革命の年となり政治的に不安定になるとされる。これを辛酉革命という。世情を安らげるために改元するべきだと言うのが三善清行の革命勘文であり、これに基づき改元されたのが延喜であるという。
そして甲子も天意が改まり、徳を備えたものが現れる『革令』の年であり政変が起こりやすいため、改元を行って世情の安定を祈るのだという。それと革命ではなく革令だそうだ。
「この戦乱の世で祈るだけで世情が安定するならありがたいのだがな」
「祈るというのも大事ですぞ」
「そうだな。帝のご意思を実現できるよう我らは我らでできることをやっていくか」
と話しているとドタドタという音がする。
「清之、おお神童殿もおったか。評定の間に集まるように」
なんだ一体と思いつつ、ついに浜田辺りが暴発したのかと当たりをつける。評定の間にいくと大槌・狐崎に小国も含めた皆がすでに集まっている。
「遅くなりました」
「いや皆いまきたところだ」
父上が一呼吸おき、話し始める。
「以前から葛西殿による千葉征討の話があったことは皆も識っておろう」
そういえば俺の策謀で葛西殿と千葉の緊張が高まっていたんだっけか。
「先日千葉が葛西殿に反旗を翻した」
父上の言葉に皆いよいよかとか言い合い、場がざわつく。父上がひとつ咳払いし場を収めると話を続ける。
「それとな、斯波と九戸、其れに久慈と根城が対峙して居るようだ。この内九戸と久慈が誼を結んで対抗しているようだ」
こちらに関しても場がざわついている。
「殿、九戸と久慈が連携をとって居るのですか?」
「いまの所はな」
どうやら斯波と根城が敵対しているから連携をとっているに過ぎないらしく、落ち着けば相争うようになるだろうという。
「それより田鎖どもの調略は進んでおるか?」
「袰綿と和井内はすでに恭順の意を示してきておる。腹帯(はらたい)と茂市(もいち)、それに蟇目(ひきめ)は千徳が一戸に引き上げたのを良いことに田鎖、千徳を抑え、当家には靡かぬという」
守綱叔父上が応じる。一戦交えねばならぬようだが、この機会に南の世田米、できれば唐丹や気仙まで抑えたいものだが。
「ふむ、こちらに降りた者共には食い物、雑穀で構わんから与えておけ。それよりも葛西殿からも要請があってな、世田米あたりは切り取りして良いとの言質を貰っておる。皆支度は滞り無いな」
みな目は爛々と、獰猛な顔つきとなっていく。
「先日の小国なんぞより厳しい戦になる。出立は五日後、みな準備は入念にな」
田植えが始まる前には帰ってこなければならない。常備兵を持つことができればもう少し出撃期間を自由にできるのだろうがな。人も食い物も武具も足りんからななかなか思うようにはいかんな。
「そういえば、鎧とは小さな板を紐でつなげておるのだな」
「ええ、若様。この小札というものを紐でつなげておるのです」
「のう清之、これでは数を揃えようにも手間がかかって難しくないか?」
「はい。ですのでこのような鎧を着れるのは一部の武家のみでございます」
足軽は腹当のみもしくは其れすら無いものが大半であるという。
「良くないな」
「は?」
「そうそう当たるものではないとはいえ何も着ないというのはな」
「とはいえ腹当でさえそれなりの値がします故、雑兵まで行き渡らせるのは難しゅうございます」
制作の手間がかかるためなかなか量産効果が得られない。また手入れも大変である。
「この胸の部分を一枚板で作って見てはどうだ?」
「ふむなるほど、確かに紐が少なければ手入れの手間はだいぶ楽になりますな。そんなことは考えたこともございませんでした」
「では早速工部大輔に相談するか。甲冑師にも相談してできぬか聞いてみたい」
鎧の改良と量産性の向上に向け検討を開始することとなった。
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