第百六話 試製鉄砲が出来ました

鍋倉山 阿曽沼孫四郎


「少しずつ形が見えてきたな」


「鍋倉山も九重沢と程洞の間もだいぶ削れてきましたが、土は周りにおいているのはなぜでしょうか」


「出てきた土で麓の土地を嵩上げしてけば水も越しにくくなるだろう」


「なるほど。ところで若様、鍋倉山と桧沢山を切り離してよいのですか?」


「なあに構わんさ。周辺の山にも堡塁を築くしな」


「堡塁とはなんですか?」


「石造りの簡易な砦だ」


 堡塁群をつなげてマジノ線みたいにしたいけど、セメントがまだないのでそこまで出来ない。穴ほって、丸太で土留と銃眼を組んで、石敷きにした床にすのこを敷けばそれなりのものになるかな。で堡塁同士は地下で結ぶようにできれば土木技術も向上するしいい感じかな。いざというときは堡塁にこもってゲリラ戦もできるだろう。ま、そんなことにならないようにするほうが大事だが。


「城下で敵が集まって来たところをその堡塁とやらから射るのですな」


「そうそう。こちらは穴蔵のなかなので向こうの攻撃は大して効かないし、相手にバレてもそれを崩せるものではないのでかなり無敵に近くなる」


「ほう、神童よその知識も神様の授かりものか?」


「これは守綱叔父上。左様でございます」


 振り向けば守綱叔父上が面白そうだと言わんばかりの顔を向ける。


「とはいえまずは主城たる鍋倉城が出来上がってこそですが」


「うむ。大きな城だが、そなたの牧による馬の繁殖拡大のおかげで土の運び出しが随分楽に早くなったわ。民も飯を食わせるといえば村中から人足が集まったし、流民もなかなかどうしてよく働いておる」


 危険な仕事に従事するものは優先的に長屋が与えられ、食料配給も優先になるようにしたため皆よく働いてくれる。もちろん村の民も危険な仕事に従事すれば食料配給が優先的に受けられるというのもあり、人足は多く、かなりスムーズに進んでいる。


「ブルドーザーとロードローラーがあればな」


「ぶるどーざーとはなんですか?」


「うむ、神様が言うには土地を均す絡繰りだそうでな、鉄の板で土を押し出すものだそうだ」


「ほぉう、それはまたすごい絡繰りですな。そんなものができれば城作りもあっという間に終わるやもしれませんな。ちなみにどのように書くのです?」


 「奉流土砂」と書いてみせる。


「ほほう、土砂を流して奉ると」


「すでに工部に基礎研究を開始させているが、土砂を押し流すような力をもたせるのがな」


 まだ蒸気機関を作るには難しい。均一な鋳造もまだまだなので内燃機関はもちろん無理だ。


「もしそんなものができれば戦が変わってしまうな」


 全くだ。碌な大砲もないこの時代なら籠城戦では無敵の存在になれるかもしれない。



遠野某所 


 カーン!カーン!小気味よいリズムで赤く焼けた鉄が叩かれていく。一枚の鉄の板ができるとこれを叩きながら丸めていく。ある程度丸くなったら真金を差し込み更に叩いていく。時々火入れしながらつなぎ目がわからないくらいにまた叩いていく。概ね均一な厚みになれば、真金を抜いて火皿になる部分を溶かして穴をあける。尾栓部分にネジ錐でネジ山を作りネジ止めすれば銃身の完成だ。


「うおおお!やっとできたぞ!」


「工部大輔様、ようやく螺子が上手くできました故」


「ああ!これで火薬を使えば弓に変わる鉄砲の出来上がりだ!一郎!若様に知らせてきてくれ!」


「はいっ!」


 時計作りで固まった体をほぐすように一郎が駆け出していく。刀鍛冶の協力もありようやく銃身部分と尾栓が出来上がった。この製法は饂飩張という安物の鉄砲の製法で、本当は二重巻き張りにしたほうが丈夫なんだが、鉄が足りない。今回もなんとか野蹈鞴を行って鉄をかき集めて出来上がった一品だ。引き金やゼンマイ、弾金(はじきかね)、火縄バサミなど必要なものは多いがとりあえず鉄筒がようやくきれいに作り上げることができたし、螺子も切れるようになった。



横田城 阿曽沼孫四郎


「おお、ついに銃身が作れるようになったか!」


「はい。まだ試作ですので引き金はありませんが。とりあえずご覧いただこうかと」


「よし、持ってきてくれ」


「かしこまりました」


 一郎が去り、父上から声がかかる。


「一体何ができたのだ?」


「明にあるという鉄砲というものです」


 一時ほどで弥太郎が横田城に到着し、むき身の筒を木枠にはめて固定する。的は二十間離れたところに先日の戦で拾って来た胴丸を吊るす。十分はなれたところで火縄に火を点ける。ダァン!と音がなるや胴丸に……あたらない。


「外れとるぞ」


「すんません、修正します。銃身洗浄ヨシ、装薬ヨシ、弾込めヨシ、照準ヨシ。……点火ヨシ!」


 弥太郎が色々チェックしていく。しばらくすると再びダァンと音がなり、今度は胴丸を貫通する。


「おお。見事!しかし精度が悪いな」


「まだまだ試作ですからな。とはいえこれが数十、数百と集まれば弾の雨になりますので凶暴なる戦果を得られるでしょう」


「なるほど。工部大輔よく作ってくれた。しかしだ、鉄砲とやらは火薬がなければならんのだろう?雨が降っては使えぬのではないか?」


 父上が尤もなことを言う。そうなのよね、射程で言えばコンパウンドボウでも同じくらいは届くしなぁ。


「は。殿の仰るとおりでございます。従いまして、これが実用化された暁には濡れても消えにくい火縄の開発と、火皿に水が入らぬようにする仕掛けを追加する予定でございます。なによりこれはその辺の農民にもたせても十分な威力を発揮するものでございます」


「ふむ…弓を扱えぬものが扱える飛び道具か。良いだろう。佐比内と甲子の鉄山は試掘が始まったところだからな。鉄に余裕も出ようしな。しかし、あれだ槍が持てぬな」


そういえば火縄銃は弾がなければただの鉄の棒だからなぁ。どうしよう。


「ご安心を。鉄砲の先に銃剣とよばれる刀をつけることで槍のようにも使うということが明ではなされているようです」


 弥太郎から合いの手が差し出されるが、この時代に銃剣なんかあったかな。プロイセン軍が導入したのがはじめだったと思うんだが。


「ほほう。なるほど、銃の先に剣をつけてやりのようにすると。ふむ面白い。まあだめだと言っても孫四郎は揃えるつもりだろうから良いぞ。その代わり十分な数を揃えよ」


 こちらからお願いする前に了解がでたな。ありがたい。銃弾用に鉛鉱山も探さねば……小坂鉱山は鉛も出たと聞くが遠いな。まあしょうがないか。

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