第九十三話 そして歴史は狂い出す
数日ほどして横田城 阿曽沼孫四郎
三戸では上手くことを運んでいると先日報告があった。そのおかげか南部が攻めてくるという噂を忘れそうになるほど平穏な気持ちになっている。
ドタタタタッ!スパァン!
「うわっ!儀道叔父上じゃないですか、一体どうされたのですか」
「どうしたもこうしたもない。評定の間に来い」
ただならぬ気配を感じおっとり刀で評定の間に入る。すると未だ寺池から帰っていない守綱叔父上と、田鎖に対して警戒している大槌と山口、それに釜石を守る狐崎を除き主だったものが集まっている。
「よし、皆集まったな。で、儀道よそなたが言ったのは真か?」
「嘘を言ってもしょうがねぇぞ兄上!」
「わかったわかった。事だったのでまだ信じられぬのだ」
一体なにがおこったのだ?
「ちょうど高水寺城で
うむうむ。このあたりは左近が上手くやってくれたようだな。新月の焔作戦は成功したようだな。
「確かに大火は大事ではございますが、他家のことでありそれほど慌てることでもありますまい」
清之の言うとおりである。
「浜田よ、話は最後まで聞いてくれ。聖寿寺館も燃えたわけだ」
館もうまいこと燃やしてくれたか。ここまではまだ報告来てなかったからな。南部の連中もいくらか斬れたなら御の字だな。
「館まで燃えたのですか。しかしそれもそう珍しいことでは無いかと」
「いやぁその燃え方なんだがな、大きな音がしたと思ったら、館が消し飛んでしまったらしい。燃え跡から政康と思しきも黒焦げの骸が出てきたという」
んん?いやいや火薬は目一杯使っていいといったが、館にどれだけ火薬をセットしたのだ。左近が戻ってきたら詳しく聞かねば。
「神童殿がなにかしたのかと思ったが、その驚き様はどうやら関係ないようだな。で、政康めの子らも一緒に死んでしまったようでな」
つまりどうなるのだろう?東北の歴史には詳しくないんだ。あとで雪に聞こう。
「さて、南部が攻めてくることは当面なくなったわけで一安心ではある。だが、三戸という重しが除かれたがために三戸に付き従っていた領主共や南部の宗主を狙うものなどが割拠することになる。我らがすぐに対峙することになるのは田鎖党か」
今の山田町から宮古市辺りだな。作物に関してはこことさして変わらぬかむしろ悪いが、宮古湾や田老の鉱山はほしい。
「父上、田鎖とは何者なのですか?」
評定はまだ続くため清之が説明すると言うことで退室する。
清之によると田鎖氏、もと閉伊氏は祖を源為朝とし奥州合戦後に閉伊郡を所領とされたという。南部守行様の代に攻め寄られ臣従、以後閉伊氏の嫡流田鎖氏も一領主に転落したが一族の結束は未だ固く田鎖党、あるいは田鎖十三家などと呼ばれることもあるのだという。
「というふうに清之には教えてもらったのだが、雪今後どうなると思う?」
「んーまず南部政康でしょ?南部家最大版図を築いた南部晴政のおじいさんに当たる人が死んだってことね。南部晴政のお父さんにあたる南部安信も亡くなったときいてるし、晴政が出てこなくなるわけね。ったく全くどうしてくれるのよ!陸奥の英雄がいなくなっちゃったじゃない!」
ええ……、そんな事言われても攻め寄られたらなすすべもなかったし。
「というか俺が殺ったと思ってるの?」
「火薬をごっそり持ち出させたんでしょ?それに爆殺なんて発想、この時代に若様以外にできる人が他に居るのかしら」
ああまあそうだな、火薬の認知が低いこの時代に爆殺なんて考えつくとしたら転生者くらいなものだからなぁ。
「でも消し飛んだっていうのはびっくりしたよ。せいぜい焼け死ぬか、逃げ出したところを斬られるかだと思ってたし」
「あ、若様の想定外だったのね」
「こちらに攻め込むのを遅らせようと思っていたくらいだから。討ち取れればなお良いかなってくらいで。それにしても一体どれくらいの火薬をセットしたんだろうな」
その時部屋の外に気配を感じる。これは、
「左近か」
「はっ。左近只今戻りましてございます。」
早速詳細を聞かせて貰おう。
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