第七十九話 妹が生まれた!

横田城 阿曽沼孫四郎


 秋になりいよいよ母上の腹が大きくなってきた。もうまもなく臨月だろうというのが三喜殿の見立てだ。お産は母子ともに命がけの行為であるので古くから安産をなすために色々なされてきたようだ。

 今日も母上は三喜殿の作った当帰芍薬散を服用している。早産に対する対応手段が進んだ現代では使われているかはしらないが、抗流産の作用があるというのでまじない程度にはなるだろう。


 そしてもう数日して陣痛が始まる。


「どうやら産気づいたようですな。では殿や若様は部屋でお待ち下さい」


 初産ではないので半日もかからんだろうという。箕助に頼んで手のひらサイズの大福帳を用意した。史上初の母子健康手帳にするつもりだ。ほんとは妊娠から書いたほうがいいんだろうけど。出生届なども作ってみるのも面白そうだな。となると印刷技術が必要か、今度指物屋に木版作ってみてもらおう。


 三刻ほどして鳴き声が聞こえてくる。どうやら無事産まれたらしい。


「元気な女の子でございます」


 三喜殿から入室許可を得たので部屋に入ると、産湯につかりきれいな布にくるまれた妹であった。


「お前様、ごめんなさい。男の子じゃなかったわ」


「何を言うか、こんなにかわいい娘を産んでくれたのだ。誇れ」


 そういえば前世では妹はいなかった。大事にしよう。とりあえず身丈と目方を計らせ、母子健康手帳に記録していく。


「孫四郎、そなた何を書いておるのだ?」


「これは母子の健康状態を記録するものでございます」


「なぜそんなものが必要なのだ?」


「これに記載すれば母子の状態の推移がわかるので、妊婦と児の健康状態の改善につながるのではと」


「ほほぅ。面白い取り組みですな」


 湯で手を洗った三喜殿が身を乗り出してくる。


「産まれた年月日に身丈、目方ですか。妊婦の体重などの経過に児の成長記録ですか。これが世に広まればより安全なお産ができそうですな。ふむ」


 できることは少ないからこそ、できることを一つずつやっていくしか無いからね。


「確かに神童と呼ばれているだけありますな。もしよろしければこのままこの地におかせて頂いても良いでしょうか?」


「無論、無論ですぞ。むしろこちらからお願いしたい程です。」


 ありがたい申し出に父上が感謝する。もちろん俺としても学べることが増えるから嬉しいし、何より母上や妹の体調管理をしていただけるというのが嬉しい。いずれ医学校を設けて医師を増やしたいね。


 お産から十日ばかり経過し母上は元気そうだ。三喜殿が産後の疲労に効くという補中益気湯をこしらえ、毎日飲んでいるおかげかもしれない。


「母上、お身体の具合はいかがですか?」


「良いお医者様に来て頂いたおかげで、そなたを産んだときよりだいぶ楽よ」


 ほほほと笑うが声にはまだ疲れがにじむ。産後の肥立ちはゆっくりだがまずまずのようだ。三喜殿の見立てではもう五日もすれば歩くくらいなら問題が無いだろうという。母上の食事は三喜殿が明で学んできた薬膳を叔父上が教わりながら作ったものである。美味そうなのでつまみ食いしたら、お灸をすえられてしまった。

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