第七十一話 田植えに掛かる労力を削減したい

金ヶ沢の田んぼ 阿曽沼孫四郎


 皐月になり田植えが始まる。

 

「はっはー久しぶりの出番だ!今年は田植え機の威力をごらんにいれてみますよ!」


 言うや育苗箱からマット苗をソリと細い車輪を履いた田植機に載せ、田圃に入る。カタンカタンと音を鳴らしながら田植機がすすむ。


「どうなっているのだ?」


「車輪が一定角動くと苗を摘まんで田圃に植え付けるのです。」


 ポット苗の方が苗には良く、マット苗にくらべて収量が倍になると言うがそんな容器がないので当面マット苗で行くという。


「ほぉ、すごいもんじゃ。早乙女四人分の仕事が一人で、それも圧倒的に早くできるのか」


 父上や鱒沢の叔父上なども見学に来、その早さに驚いている。


「これを作るのに時間がかかりますので全部これでと言うわけには参りませんが、それでもだいぶ田植えにかかる人手を減らせます」


 確かに腰をかがめなくて良いので腰痛は減りそうだ。


「弥太郎、牛馬に牽かせるとかはできんのか?」


「若様、北海道では馬耕の直播機があったのですが、田植機は存じません」


 今までに比べれば圧倒的に早く一町歩田植えするのに昼までかからずにすむ。直播機はさらに便利だろうけども、この寒い遠野で使えるのだろうか?


「あ、あっというまに一枚田植えがすんでしもうた」


父上があっけにとられる。


「兄上、これができれば年貢が増えますぞ」


「うむ。しかしあまり米を増やすと山背がこわいでな」


「なれば稗田を増やせば良いのです」


 たしかに稗の植え付けにも使えるから稗田を増やすのも悪くないんだよな。いずれにせよ生産量が増やせるので肥料の問題がクリア出来れば人口が飛躍的に増えるだろう。


「弥太郎、そなたこれをどれくらい作れるか?」


「これだけ作っているわけではありませんので、おおくて年に2ー3台と言ったところかと」


「人をやるので増やせぬか?」


「鱒沢様、鍛冶や木工がある程度できるものがおらねば同じようには作れませぬ」


 そうなのよな、現代のように3DCADだとかなんとかはないからある程度熟練せんといかんのよな。


「父上、叔父上、水を差すようで申し訳ありませんが、我が領が富めば狙われるのでないでしょうか?」


 富むように仕向けている俺が言うのもなんだけど、米があまり取れるようになればそれだけで狙われんか?


「これが普及すれば今まで農作業に駆り出されてた奴をいくらか兵として使えるようになろう」


 この田植機でも手植えより圧倒的な効率で田植えができるので、田植えにかかる人間を削減できる。あまり余裕のないことは出来ないのでせいぜい今の半分の人手で田植えをやって貰うことで、余剰人口を他の産業を回すことができるので、恩恵は計り知れない。

 他領に攻め入る場合なら他より早く農繁期を終えることで侵攻時期の選定に幅を持たせることができるかも。


 残念ながら二反歩植えたところで壊れてしまった。残りは手植えになったので結果として余り時短にならなかった。弥太郎は来年は鍛冶に頼んで鉄で補強してみるとかなんとか。


 父上や叔父上も配下の番匠や指物屋に鍛冶師をやって今の田植え機を量産するように仕向けることとなった。弥太郎の作業場も随分手狭になりそうだ。城の移動と合わせて引っ越しさせるか。


 弥太郎は機械の改良にいそしんでいるし、指物屋などを長期間拘束もできんから、作業を単純化と分解して流れ作業で作業分担させれば習熟が早くなるんじゃないかな。

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