第四十一話 公卿を受け入れるのは貧乏武家には苦行です

横田城 阿曽沼孫四郎


 日が明けて早速評定衆を招集にやる。

 夕方には皆が評定の間に集まっている。今回の評定は昨日の葛屋からもたらされた文についてであり、京や公家衆の状況を聞くために葛屋にも参加を命じている。


「さて、皆急に集めてすまぬな。実はすこし急ぎの話でな」


「兄上、一体どうしたのだ?」


「守綱兄、そう急くな。戦ではなさそうだし、ちと落ち着かれよ」


 珍しく宇夫方の叔父上が鱒沢の叔父上を嗜める。一つ咳払いして鱒沢の叔父上が腰を落とす。


「で、守親兄上、戦ではないが急ぎの評定とはどうなさった?」


「うむ実はな、そこの葛屋という懇意にしておる商人が四条権大納言様から文を届けてくれてな」


 四条権大納言からの文ということで一斉にざわつく。一体何が有ったのかと皆心配しているようだ。


「文にはこの阿曽沼家と四条様が同祖であるとまず書かれていた」


 皆言葉が出ないようだ。確かに藤原氏の傍流の傍流と聞いてはいても、殿上人と同祖であるなどまさに寝耳に水である。それもわざわざ向こうから話しかけてくるなど、家系が重視されるこの時代には驚天動地の出来事である。


「その縁(えにし)を頼りにご家族をこの遠野に送りたいと書かれておった」


 一転、評定の間は静寂に支配される。


「守綱兄、どういうことなのか?」


「うむ。京は大樹や細川管領家の内紛で荒れておると聞く。そこの葛屋が詳しかろう?」


「葛屋よ昨今の京の状況を教えてくれるか」


「ははっ」


 一度平伏し、評定の間の末席に座る葛屋が話し始める。


「昨今の畿内は荒れに荒れてございます。先の応仁の大乱で受けた傷痕は深いもので、まだ往年の活気は取り戻せておりませぬ。それに加えつい先年の管領家や畠山家の内紛で河内や近江、大和もまた戦場となり荒廃してございます。また山門と寺門の争いに日蓮宗や興福寺、高野山などの僧兵も強訴を繰り返しております」


 こちら奥州でも多少の戦はあるが、畿内や関東あたりのような大規模な戦闘はないし、僧兵が蔓延れるほどの余裕もない。


「最近では荘園からの収入もなくなり、公家衆だけでなく帝も困窮しておられます」


「大樹はこの状況で何をしておられるのだ?」


「大樹とは商いがございませんゆえ、詳しいことは存じません。ただ世継ぎ争いを繰り返し政どころではないようです」


 京の治安維持は足利将軍の仕事の筈だが、市井の事など気にもかけず権力争いばかりか、全く困ったもんだ。


「父上」


「孫四郎、なにか?」


「四条様を受け入れては如何でしょうか?」


「むぅ、そうは言うがな」


「父上、なにも今すぐというわけではございません」


「というと?」


「大槌めを平定すれば海路を手に入れられます。そうすれば港を整備することですぐにではありませんが上方と商いもできるようになります。上方と商いをする上で四条様の後ろ盾が得られるのです」


評定衆はそれでどうしたという雰囲気だ。


「ほほぅ。神童殿が大槌を望んだのは上方と商いするためだったのか?」


「もちろんです。そりゃあ魚も食べたいですが、この遠野に閉じこもっていては、いつまでも貧しいままですので」


「ははっ!その繋がりのために公卿を手に入れたいというのだな。はっはっは!実に面白い!兄上、俺も四条様を迎えることに賛成するぜ」


 一同ぽかんとしてしまったが、後ろ盾があるのとないのでは大違いだ。どうせあと半世紀もすれば滅びる落ち目の幕府などではなく、公卿あるいは可能であれば帝の後ろ盾を得たいものだ。


「守儀や孫四郎の言うことも尤もだな。兄上、この守綱も四条様をお迎えするのを賛同致す」


 鱒沢と宇夫方の叔父上がともに賛同したため、反対するものは出ず大槌を獲得次第受け入れる事となった。


「よし!皆、それでは四条権大納言様をお迎えできるよう、秋の戦支度を入念にせよ!」


 応!と一斉に言うや散会となる。葛屋は同意を得られたことに安堵した表情だ。

そして例によって評定後は宴会だ。よくわからんが偉い人の後ろ盾が得られると皆喜んでいる。

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