第三十九話 家畜の改良を始めます

「と言うことでして父上、農耕用の体躯の大きな馬を作りたいです」


「そのようなことができるのか?」


「は。大きな馬、足腰の特に丈夫な馬同士で子をなさせればいずれ大きな馬ができると、神様がおっしゃっておりました」


 半信半疑ではあるが神様のお告げというと、無碍にできないようで悩まれてしまった。


「このあたりに馬を飼うに適した土地はあったか?」


「低い土地は田畑にするべきですので、この横田城の上、高清水山に牧をもうけては如何かと存じます。糞は集めて堆肥にするのが良いと」


「なるほどな……。松崎よ」


「はっ」


「そなたに牧を任せたい」


「ははっ」


 松崎か。たしか居館がこの横田城の近く、猿ヶ石川と小烏瀬川の合流部にあったはず。尾根伝いに進めば高清水山に行けるので沢登りになるこの横田城よりは行きやすいか。


 なんとか牧場を始められそうだ。今後荷役も考えるとペルシュロンやシャイアーのような大型の馬も欲しいな。欧州には居るのだろうか、もしいるなら南蛮貿易できるようになったら是非手に入れたい。それまでは、そうだな……。


「父上」


「どうした?」


「折角良い馬を作るのです。それぞれの馬を持ち寄って力比べをするのは如何でしょうか?」


 皆が興味津々にこちらを見る。よし、食いついたな。


「どういうことか?」


「馬と言っても、走るのに秀でた馬や力の強い馬など違いがありましょう」


「ふむ。つづけよ」


「年に何度か馬を競わせる試合をもうけてみては如何かと」


 宇夫方の叔父上が合点が言ったかのように笑い出す。


「なるほど!神童殿面白い事を考えよるわ」


「どういうことじゃ?」


「兄上、神童殿は優秀な馬同士を掛け合わせてより優秀な馬を作ろうと言っておるのだろう」


 さすがは宇夫方の叔父上。こういう面白そうな事に対しての理解が早くて助かる。


「なんと、そういうことか。しかし、松崎が有利で無いか?」


「確かにその通りにございますが、馬だけでなく馬を操らねばなりませんので、騎乗するものの腕も勝敗にかかってきますので馬を沢山持っているから有利。とは一概には言えないと思います」


 ちょっときついかな。ただ漫然と馬を育てるよりは麦踏み競争みたいに競馬や輓馬競争に障害馬術といったものができれば優駿を作る動機になるんじゃ無かろうか。ペルシュロンのような重種とハクニーのようなスタミナに優れた中間種を作ることができればいいな。


「まあ、なるようになるさ。兄上、こういう面白そうなことはさっさと始める方がよいですぞ」


「・・・…そなたはその面白そうだと言うだけ理由だろうに。まぁよい。確かに優駿はいくらでも欲しい。優駿の選抜のために馬を競わせるのが有用というならやってみせよ」


 宇夫方の叔父上が味方してくれたこともあり、なんとか競馬ができるようになった。これで優駿の選別ができるようになった・・・かな?

 ついでに前世の競馬のように公営にすれば、寺銭が入るし報奨金も出しやすくなって改良もはかどるだろう。



 さて馬の方はなんとかなりそうなので、続いて犬をなんとかしよう。幸い二匹ほど幼狼を手に入れられたから、いずれ犬と掛け合わせてやりましょうかね。

 こちらはなかなか理解を得られなかったので自分で世話することになった。あまり警戒されること無かったので生まれてからさほど経っていなかったのだろう。


「わんわん!」


「くぅーん」


「よーし、餌だぞ」


 目の前にクズ肉と骨を載せた餌皿と水皿を置く。少し大きめの器に二匹分の餌を入れることで社会的スキルを与えることができる。


「よしよし、よく喰うんだぞ」


 ガツガツと頬張る。しばらくして食べ終わるとこちらにじゃれついてくる。


「よしよし、しっかり喰ったか」


「ハッハッ!」


 だいぶ言うことを聞くことができるようになってきたので、首輪をつけて外に連れ出す。


「あ、若様!子犬触っていい?」


 雪を見た二匹のうち一匹は興味津々、もう一匹は尻込みしている。


「おう雪。触ってもいいが手は必ず顎の下に手を差し入れるようにするんだぞ。でないと怖がるからな」


 興味津々なほうの幼獣が雪の足元をクンクンし、鼻先を雪に向ける。雪が手を差し出しながら話しかける。


「あら、そなたは触らせてくれるのね。賢いわねー。ねぇ、二匹に名前はつけてるの?」


「ああ、そっちのやつは背中に黒斑(くろぶち)があるのでブチ、こちらの臆病なほうはハチワレになっているのでハチだ」


 正直安直な名前だが、いい名前が思いつかなかったから仕方ない。


「安直な名付けねー。ぶちーよろしくねー」


「あとしばらくしたら徐々に外に連れ出して環境に慣れさせていく予定さ」


「ふうん。今は二匹だから良いけど、数が増えてきたらどうするの?若様が続けるの?」


「そうだねぇ。馬の調教師みたいに犬の調教役も作ってみようかな」


「ところで、狼って犬と同じ飼育法で良いの?」


 そんなの知らないよ。狼なんて飼ったことないし……。幼獣のうちに拾ったから犬のように育ててるだけだし。このあたりは動物生態学や獣医学として研究させたいものだな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る