第三十八話 ヘビープラウと女袴

金ヶ沢 阿曽沼孫四郎


 田植えが終わり、大麦ほか畑作の準備が進む。田植え機が使えなかったが、また何か変わったものを持ってくる。鋤のようだが、車輪がついているな。


「若様ー。田植え機では遅れを取りましたが、此度はおまかせを!」


 息を切らせながらも弥太郎がドヤる。


「これはなんだ?」


「これはヘビープラウです。大変重いのですが、畑などのしっかりした土壌であればしっかりと鋤を入れることが可能です」


 最近手が足りないとのことで1人助手をつけることとなった。車輪なんかは番匠に依頼しているそうだが在庫管理などを任せつつ、読み書き計算を教えているそうだ。


「所長様、これはどこに運べば良いでしょうか?」


 女袴に前掛けエプロンか。ふむ。


「陸奥では珍しいものですな」


「清之、女が袴を履くのは珍しくないのか?」


「長袴といいまして宮中では女どもが履いております。鎌倉の頃からは履かないものも増えたそうですが。尤も裾は引きずるもので、こんなくるぶしが出るようなものではありませぬし武撃突(ぶうつ)を履くこともありませぬ」


「なるほど。詳しいな」


「将来雪にも着る機会があるかもしれないと思い、調べていたのです」


 鼻息荒く清之がいう。


「父様、きもいです」


「ぐおー!雪ぃぃぃ!なんと言うことをぉ!」


 雪の会心の一撃に清之が悶絶する。だいたい真面目なのに時々ネタ枠になるのよな。

 ふむ、しかし少しかかとを上げたブーツに腰が高い女袴か。化粧品などないので、すっぴんであることを除けばまるで卒業式の格好だな。現代風の化粧ができればあればなかなかの見栄えだったろうな。


「若様どうでしょう?」


「うむ。なかなか良い趣味だ」


「ふふ。そうでしょうそうでしょう」


 まあまだ思春期を迎えてないこの身では興奮はないが、いいものはいいな。弥太郎いい仕事したな。


「・・・・・・」


「あら雪、欲しくなっちゃった?」


「は、はい・・・」


「若様に見てほしいのねー」


「ち、違います!そ、そんなんじゃありません!」


 なんか雪とお春さんが言い合っているが、周りの雑音であまり聞きとれない。どうやら雪が袴姿に興味を持ったようだ。ふむ、学校作って制服とするのも有りかな?となると作法を教えてくれる京の方に来て貰わねばならんが、現状では厳しいな。里の者を食わせるので精一杯だし。


 と言うことで衣服については問題を先送りとし弥太郎自慢のヘビープラウで畑を耕起していく。馬の耐久性が足りんので思ったほど進まんがそれでも人がやるよりは早く進む。


「馬が疲れてしまいましたな。車輪つきでしたが、やはりかなり重かったようですな」


 しょうがない。プラウがすべて鉄張りになっているのだ。車輪がなければここまで弥太郎と助手で持ってくることはできなんだろう。


 いかんせん馬が非力でどうにもならん。大槌平定後に和山の地に大規模な牧場を設けようと思ったが、悠長なことも言ってられんな。横田城のうえ、高清水山のなだらかな箇所を牧にしよう。ちょうど炭用に木をだいぶ切ってはげ山になってしまったし。

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