第三十七話 京はいつもきな臭い
四条邸
「もどったでー」
邸の門をくぐる。度重なる戦乱ですっかり荒れてしもたが、直すあてもあらしません。庭も見えるところはなんとか手入れしとりますが、屋敷の影になるところはところは草が生い茂ったまんまや。銭のことを考えるのは卑しきことと憚られますが、やはり辛いものですな。
権とはいえ大納言で帝の包丁を務めるといえど、牛車も維持出来ませんさかい、西陣あたりまで歩かな仕方あらしまへん。
「とのさま、山科様がいらっしゃいました」
黄門(中納言)さんがどないしはったんやろか。待たせるわけにもいかぬので急ぎ上の間へと足を運ぶ。
「山科はん、おまっとさんです」
「これは四条はん、急に訪ねてえらいすんまへん」
「とんでもあらしません。なんぞあったんちゃうかと心配しとります」
「ほほほ。大したことではあらしませんが、少しばかり相談したいことがありましてな」
一体どういうことかと、気になりますわ。茶をすすり一服ついたところで、黄門はんが話し始める。
「いやなに、ようやっと京も落ち着いてきたわけやけど、また何ぞ半将軍(細川政元)はんとこがきな臭うなってきとるやろ?」
「管領はんはたしか修験やってはってお子がおらんかったなぁ。せやけど関白(九条尚経)はんの弟はんを猶子にもらってはったやろ」
「それやそれ。讃州家からもお子さんもろてはるやろ。それでなんや家督争いが置きとるらしいんや。九条はんやら近衛はんやらが動いとりますが、一波乱あるんちゃうかと思っとるんです」
「そうかて、あてら羽林家でできることはしれとりますやろ?」
「せやねん。まああてらが動いてもたいしたことできませんし、室町はんの政に付き合う気はあらしまへん。ただ家族を安全なとこにやりたいのですわ」
「そういうことですか。そなら土佐の一条はんとこに行くのは如何でおじゃる?」
黄門はんが唸っとるの。まあ他に伊予の西園寺はんとか飛騨の姉小路はんもおるけど、家格で言えば九条流の一条はんとこがいちばんやろな。
「土佐にやるのはあても考えましたがの。あそこは九条流でおじゃる。あてら魚名流としてはやや肩身が狭うないか?」
「しからば魚名流に関係あるところで大身と言えるのは大友、結城、伊達はいかがでおじゃる?」
「大友の現当主は室町はんと争うとるでなぁ。結城はんとこはだいぶ盛り返してきとるようやけど、嫡男はんはあまりできがええとは聞いとりまへん。伊達の大膳大夫はんはついこないだ戦に負けて会津に逃げてたいいますからなあ」
「案外ええとこあらしませんなぁ」
「そやかて四条はん、おたくはん葛屋とかいう商人と仲ええやろ?なんか伝手あらへんか?」
「そないいわれましても……。まあ、あてとしましても家族を安全なところにやりたいのは山々やから、ちと探るよう頼んどきますわ」
山科はんはほっとしたような顔してはる。大身でないとこやと今より悪い生活しかでけへんかもしれんからあんまり期待せんといてほしいわ。まあ遠野の阿曽沼とやらも陸奥やさかい米も獲れるかどうかの場所と聞いとるからなあ。
此度の文であちらさんの状況教えてもろてまた考えよか。
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