第三十五話 疎植の検討
遠野某所 阿曽沼孫四郎
さて田植えだ。田植え機はほしいが育苗箱もなく、田植え機は弥太郎が試作機を持ってきてくれたが今年は導入を見送ることとなった。弥太郎いわく、育苗箱の試作も指物屋と棟梁と相談しつつすすめるとのことだ。
温床苗床の苗は順調に育っている。今回は慣行のばらばらな田植えと、五寸(約15cm)間隔の正条植え、一尺(約30cm)間隔の疎植に分けて比較する。
「若様、こんなに間隔開けて良ろしいのですか?」
「わからん。労多くして功少なしとならぬようどの植え方が良いのか調べるのが此度の目的よ」
「確かに、昨年の結果で大きな苗のほうが米のなりがようございましたからな。何事も試してみなければわからぬということですな」
本当は木酢液を用水と一緒に流したかったのだが、播種時の消毒用はともかく用水に混ぜるだけの量が確保できなかったというかどれだけ混ぜればいいのかわからないのでこちらも来年以降にお預けだ。
苗かごが田んぼに集められる。早男と早乙女らがそれぞれ数本の苗をとり田植えの準備は完了だ。田植えに取り掛かる前に田植踊りを舞い、豊穣を祈る。
氏神様への祝詞が捧げられ、いよいよ田植えが始まる。太鼓の調子に合わせてベテランの早乙女たちが軽快に田植えをしていく。物心のついた子どもたちも苗を取り、早乙女、早男として植えていく。もちろんおれも田植えに参加する。植える数が少ない疎植の田を俺たちが植え付ける。
「ぬっ。足元が……ぬお!」
大きく足を上げた瞬間にバランスを崩し、尻もちをつく。周りでも泥に突っ込んでいる子供が多く皆が笑う。常に中腰を強いられるので腰が辛いし、安定の悪い泥に足を取られるし、浅いとはいえ冷たい雪解け水に浸かるので大きく体力を消耗する。早く田植え機できてほしいが、内燃機関ないしなぁ。少しでも労力が減るようにしたいものだね。腰痛い。
日が傾き、今日の田植えが終われば宴会だ。明日も明後日も田植えなので酒はほどほどに、干し肉に加えてなぜか大槌・釜石からの魚もよく入るようになったので焼き魚なども振る舞われる。
なかでも魚と一緒に入っていた、マツモという海藻はさっと湯にくぐらせると芳醇な磯の香りが口に広がり実に旨い。この大きなカレイの干物も炙れば旨みがあふれる。醤油があれば言うことなしだったが……。
「なあ雪、醤油ってまだできない?」
「秋に仕込んだばかりじゃ無い。まだよ。熟成が終わるのに一年ほどかかるわ」
「そうかぁ。この魚たちにかけたら旨いのになぁ」
「無い物ねだりしてもしょうが無いわ。それより秋には大槌に攻め入るのでしょう?」
「そうだよ。とはいえ狩りには行ってるが人を撃つのはしたこと無いから、やっぱちょっとまだ抵抗感があるな」
「戦国の世だものしょうが無いわ。それよりその辺で野垂れ死んでる人がいることのほうが衝撃だったわよ」
雪の順応性に驚きが隠せません。
流石に寒さで体調をくずし死んだ者はいたが、今冬は狩りのおかげで飢え死はおらず、なんとか凍死も例年より少なくすんだ。代わりに山から獣が居なくなってしまったが。田畑にするほどの開墾が進まない場所は木を切り、牧場としている。
馬と牛しかいないが、運良く羊や山羊が手にはいらんだろうかね。葛屋には注文しているがここまで連れてくるのは大変だしな。そういえば雪も溶けたしそろそろ葛屋もくるだろう。今回は何を持ってきてくれるだろうね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます