第廿八話 雛人形はありません

 桃の節句をむかえた。形代(かたしろ)として藁人形を作り、お祓いを行い無病息災を願うお祓いの儀式だった。


「まだひな壇はないのね」


「そうだな。雪はやっぱりひな人形欲しい?」


「んー、まあそうね。ところでひな壇っていつからできたの?」


「江戸時代には贅沢品で取り締まられたのが有った気がするけど……くわしくは知らないな」


「ふぅん」


 ひな壇なんて現代でも贅沢品だから、ひな壇を飾るようになるのは社会が安定して貨幣経済が発展し、生活にある程度余裕ができたからだろうな。


 というわけでこの時代は味気ない藁の身代わり人形を流し、無病息災を願うというもののようだ。そう言えば俺は病気では死なない程度のチートを貰っているが、雪や弥太郎は何か貰っているのだろうか?


「え?私はそういう特典は聞いていないです。若様ずるいなぁ」


「自分もですね」


「そうか……。なら二人もそうだが、病気で死なないようなんとか手を打たないとな。まずは衛生状態を改善するために石けんからかな。今年のケシ油とエゴマ油、大豆油に余裕が出たら試作してみよう」


「ペニシリンはつくらないの?」


「作り方がわからない」


「あーなるほど。ねえ若様は神様に会えるのよね?神様に聞いてみてよ」


「んーいや。こちらから望んでと言うのは……ないな」


「以前熱出したときはお会いできたのでしょう?」


「熱が出たときだけのようだからなぁ」


 なんだ俺に寝込めというのか? いくら死なないといっても結構しんどかったんだよ。


 と思ってたらまた熱でました。まあ五歳児ですし風邪ひきまくる時期だから仕方ないね。


「まさか本当に会えるとは思っていませんでした」


「一年生き延びた記念よ」


「やっぱり死にまくってますか」


「そりゃもう盛大に」


「ちなみに今まで何人転生して今生き残っているんですか?」


「そうね。今日までで一万五千五十三人を転生させて、今のところ生きてるのはあなたたち三人だけよ。」


 まさか俺たち以外全員死んでいたなんて……。


「ちなみに死因はなんですか?」


「そうね。えーと死因統計一位は餓死で全体の約半分。二位は病死で、三位は戦死、残りは盗賊に殺されたり慰み者にされたあげく気が狂ったり、妖術使いだとか狐憑きとか悪魔とか言われて弾圧されて死んでいるわ。……そういえばペンギンになって南極に送ってくれってのはあったわね。シャチに食われちゃったけど」


 まじか……遠野なんて転生先としては大外れだと思ったけど生き残れているだけまだマシということか。


「ちなみに病気耐性のチートを付けてくれたのはなんでですか?」


「上役の神様達の気まぐれね。神に思いやりなんて無いわ」


「はぁ……」


「あんたはたまたま運良く偉い神様の覚えが良く、物わかりの良い両親の元に転生できたってわけ。よかったわね」


「転生先は選べるんですか?」


「おおまかな場所はね。日本とかアメリカとかヨーロッパとか」


 なんと言うか大雑把だな。


「ちなみに今後日本に転生してくる者が居たら遠野周辺に送ってもらえたりはしますか?」


「んーそういうのはあんまりしてないし、他の世界の神とも取り合いになっちゃうからなかなか難しいわね。まぁ上司のお気に入りなあんたの事だから聞いてみるけども。それからペニシリンの作り方は自分たちで見つけなさい。そこまで私たち優しくないわ」


 なぜお気に入りなのかよくわからないが、有用な情報を手に入れたしもしかしたら有用な人物が来るかも知れないのはありがたい。ペニシリンの作り方が聞けないのは残念だけど。


「さ、そろそろ目を覚まして周囲を安心させてやりなさい」


 目を覚ますと前回と同じように目の下に隈を作った両親と、清之がいる。前回ほどでは無かったがなかなか危険な状態だと医者に言われていたらしい。


 ややおくれて雪が飛び込んできた。死なないと聞いていても心配してくれたらしい。お礼を言うとそっぽを向いてしまったが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る