第廿七話 石を見たい
今日は左近に頼んで鉱石について解説を受ける。
「若様は石にも興味がお有りで?」
「石は様々なものが有るからな。なかには金銀銅に鉄など含まれるのもあろう。そういうのを知るのも大事だと思ってな」
「なるほど。それは良いお心がけでございます。石を持ってきます故、しばしおまちくだされ」
清之と話している間に棚から標本箱をいくつか持ってくる。各地を回っているうちに集めた珍しい石だそうだ。
「この黒いのは何だ?」
「これは黒曜石と申しまして、割ると貝殻状にとがった形になります」
コツッと石でたたくと割れて剥がれる。
「ふちは良く切れますので注意してください」
初めて見たが、結構きれいだ。宝石としても使えるのでは無いかな?
「信州の霧ヶ峰あるいは伊豆沖の神津島と言うところで採れる物が良質とされていますな」
「伊豆の島か」
「流刑の小島ではありますが、温暖で嵐が無ければ住みよいところと聞きます」
「左近も行ったことはないのだな。……これは?」
緑の縞模様が入った石を指さす。
「これは孔雀石といいまして、これを溶かすと銅がでます。このまま使えば笙の青石ともなります」
なるほど、この緑は緑青か。たしかこれは一般的な銅の二次鉱物だったな。こいつの産地近くに黄銅鉱などがあるかもしれない。
「きれいね」
雪がうっとり孔雀石に手を触れる。宝石なんかも少ない時代だからというわけでもなく、光り物に気が行ってしまうのだろう。
「この孔雀石と一緒に見つかることもあるこの青いものが群青というものです。これも溶かすと銅になるのです。ただ銅にするよりこのまま売った方がよほど高価ですので鋳溶かす物好きはまずおりませんが」
「どれほどの値なのだ?」
「二両(約75g)ほどで米一俵に値しますな」
「そんなにか!」
清之が驚く。
「塊で出ればブルーマラカイト……」
「塊は滅多に出ませぬ」
「ね、若様?」
「むりだぞ」
機先を制すと、雪のほっぺたがぷくーと膨らむ。
沢山採れるようなら京や堺に売って代わりに食料や武具を買い込んだ方が良さそうだな。釜石鉱山は銅も採れたはずなので、少し期待しよう。余裕が出たなら母上や雪のためになにか作らせよう。
「この赤い物は?」
「これは鉄の石です。これを赤熱させ一気に冷やすと南北を指し示すようになります」
なるほどこの赤い鉄鉱石を加熱して冷やせば方位磁針が作れるという訳だな。磁石が得られるとなると、発電機も作れるようになる……か?
「さて若様、この石は何に見えますか?」
「これは随分金ぴかだな。まさか金というわけもあるまい?」
「ご明察です。これは升石という鉄と硫黄の混ざった石です。同じ重さの金と比べればだいぶ大きくなります」
これが黄鉄鉱か。愚者の金と言うだけ有って金ぴかだな。これはだまされる。
「同じ金(かね)であっても石が変われば色合いが変わるのです」
「なぜだ?」
「某にはわかりませぬ」
「知っているものや、調べているものはおるのか?」
左近がしばらく逡巡するが、やがて首を振る。
「某の知っているものの中には詳しい物はおりませぬ」
この時代に錯体とかイオン化傾向とかは知られていないので説明は簡単なものではあったがこういう者を見るのはイメージがつきやすくなって良いな。ある程度余裕ができたら詳しい者を探すか、育成するかしよう。そのなかには転生者が居るだろうからスカウトもできるかもしれない。
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