文亀二年(1502年)

第廿六話 炬燵を手に入れた!

 年明けて文亀二年。数え五歳となった、阿曽沼孫四郎だ。


 松の内がすぎ、年明け最初の麦踏み競争が始まる。今日も多くのものが参加する。

前回のリベンジに燃える参加者も少なくなく、守儀叔父上や父上もその一人。左近は辞退しようとしたが父上に参加を命じられ、タイトル防衛戦にしぶしぶ挑むこととなった。


 通年ポイント制とか導入して公営ギャンブルとして整備しても面白そうだ。競争がある方が張り合いが出るだろう。寺銭は耕地開発などインフラ整備に投入しよう。


 今回も左近が勝つかと思ったが、意外な伏兵が優勝をかっさらった。名は五日市の又五郎という。今回も僅差で二位となった宇夫方の叔父上は完全に意気消沈している。熊は狩れても試合では勝てぬと言うことだな。


 左近は三位、父上は今回も四位。清之は今回走者として参加し、十人中七位に甘んじ失意の底に沈んでいる。


「父様かっこわるい……」


「がああ!つ、つぎは父のかっこいいところ見せるから!な!」


 清之が奮起するが雪はあまり興味なさそうに相槌を打つ。中身は成人女性だからな、仕方ない?


「又五郎とやら。そなた読み書くなどはできるのか?」


「仮名のみでしたらば」


 青空教室のおかげで平仮名や片仮名は読み書きできるものが増えたが、さすがに仮名のみでは仕事にならない。力だけでは戦には勝てんからなぁ。読み書き計算できねば……。


「菊池豊前守、この者に読み書きを教えてやってくれんか」


「御意に。」


 どうすれば書字をうまく教える事ができるようになるだろうか。そういえば今日が小正月。小正月ならとんど焼きがあったな。紙が潤沢に生産できるようになったら書き初め大会をしよう。算術大会などもやってもいいかもな。


 ところで、ついに念願のあのチートツールが手に入ったんだ。床は板張りなので毛皮を敷いて、布をかぶせただけだが。そう、炬燵です。これでだいぶ冬を過ごすのが楽になった。まだ試作でこれと弥太郎の研究所に1個ずつしかない。ちなみに使っているところを母上に見つかり没収されました。


「孫四郎や、子どもは風の子と申します。こんなものでぬくぬくしているようでは軟弱になってしまうでしょう。母が預かっておきます。」


 とかなんとか言って。まあ母上の分を作る予定は有ったから良いんだ。うん。



 ようやく啓蟄(けいちつ)をむかえ少しずつ寒さが和らぐ日が出てきた。雪も少しずつ減り始める。そろそろ保温折衷苗代を考えなくてはならない。


「なあ雪、保温折衷苗代ってしってる?」


「農業科ではないので……」


「そっか……とりあえず地表面だと寒いから、少し掘り込んで木枠で囲って堆肥やら籾殻とか藁を敷いて播種して油紙はった木枠の蓋をかぶせてみるか…」


 紙漉き小屋に顔をだす。


「これは若様と雪様。このようなところにお越し頂かなくともこちらから参りましたのに。」


「いや、たまには様子を見てみたくてな。どうだ調子は?」


「へい、水車で藁もほぐしてますんで随分紙を漉くのが早くなりました。おかげで手が足りないほどです。」


「それは重畳。手か……。この遠野はそなたの紙から得られる銭で潤っておるからな。都合できるよう父上に相談しよう。郷のものでよいか?」


「へい。とはいえ一度に何人も教えられませぬので一人か二人で良うございます。」


 人手か。当家もだが人手不足は深刻だな。


「あぁ、そうだ箕介、頼みがあるのだが油紙を作ってくれぬか」


「油紙ですか。すでにいくつか試作のものがありますので、しばしお待ちを」


 すでに作ってたのか有能すぎるだろ。しばらくすると油紙の束を一抱えもった箕介が戻ってくる。

 なんでも油紙の需要も出てくることを見越し、荏胡麻油を買っていたと。荏胡麻の実も取り寄せてこの春頃から栽培を開始するとか。ある程度増やせたら少し実を分けてもらえるよう依頼しておく。


 本当に有能だなぁ。戦には出て貰っちゃ困るが士分を与えても良いかもな。


「これくらいの物ですが……」


「十分だ。この礼は弾む」


「今でも必要以上に頂いておりますので、これ以上は特に必要ありません」


「無欲だな。しかしそういうわけにはいかん。何か考えておく」


「お心遣い痛み入ります」


 と言うわけで紙漉きの丁稚を募集することにし、数日後に応募者が幾人か集まったので何回か試行し、適性が比較的高そうなものを二人選抜する。


「そなたら名は?」


「おらは附馬牛の右平と申します。」


「わたしは糠前の亜紀と申します。」


 地べたに額をこすりつけるくらいひれ伏している。衛生面で問題あるからそのうちやめさせたいな。


「そなたらの働き次第で俸禄を与える。家族の為にもしっかりやるのだ。」


 改めて二人がひれ伏す。余利身近なもののための方が頑張りになるだろうし、逃げだしにくくもなるだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る