第廿五話 今後のために戸籍を作ろうと思います
横田城 阿曽沼孫四郎
「なるほど。それでは来年の秋頃には大槌が攻めてくるかもしれんと言うことだな」
「はっ」
「殿、どう手立てを講じましょうか。迎え撃ちますか?」
わいわいとあれやこれや意見が飛び交う。ただどれも決め手に欠けるものばかりであった。
「やはり大槌城を落とすのが難解だな」
「治部少輔(鱒沢守綱)、なにか案は無いか?」
「むー。思いつかんなぁ。神童殿なら妙案あるのではないか?」
「おお、そうじゃ。神童殿の意見を聞いてみたい。」
評定の間の視線が俺に集中する。
「まず攻めてくるのがわかっているのなら準備を入念に、実際に攻めて来たならば負けたと見せかけて深入りさせ、油断したところを襲うのです」
「なるほど。大槌めは差し詰め先ほどの熊と言うことですな」
「そう、で大槌が深入りしたところで包囲するのです。さすれば城兵も居なくなり、もぬけの殻になった城などどれ程堅固でも大した脅威では無いでしょう」
評定の間が色めきだつ。ここでもう少し提案をしてみよう。
「もう一つ提案があります。」
「なんだ?」
「村ごとに適齢期の男子を幾人か槍働きできるものの名簿をつくっていただきたいのです」
せっかくだからプロイセンのカントン制を参考に選抜徴兵制の仕組みの種を今のうちに蒔いておこう。私兵なんて持っているから戦国の世が終わらんのだ。兵を持つのは国家のみでよい。反発するならしていいが、気がついたときには国人領主の力は大きくそがれている、そんな状況にしてしまいたい。
「なるほど百姓の長男や職人や商人、坊主、神主あるいは二貫文払えば戦に行くことを拒否できると言うことか」
「はい。逃げた場合はその出身地から新たに足軽を採るのです。こうすることで足軽の逃亡を抑制することができ、軍全体のまとまりがよくなります」
「なるほど、神童殿の言うことは一理ある。しかしあまり兵に取り立てては野良仕事が進まなくなってしまうぞ」
「守綱叔父上の疑問、ごもっともです。ですので簡単な調練を行って一通り形になれば、夫役を解除し年に数回、一度に十日間程度の調練に参集させることで最低限の槍働きができるよう維持するのです。もちろんその間の食い扶持は我々が出すことになります」
「面白いことを考えつくのう、しかし兵糧の蓄えは俺等とて余裕のあるものではない。今は無理だ」
鱒沢治部少輔守綱が唸りながらも、冷静に現在の状況からダメだしをする。常備兵の設立は遠いな。
「だが面白い仕組みであるし、いまから支度を始めるのは良いだろう。まずは各村ごとの帳簿が必要だな。文字を書ける者をまず集めねばならん」
「夫役で集めた者に読み書きをたたき込めばそのものがまた帳簿を作れるようになるでしょう。また、文字が書ける者が増えれば各人の知恵を集めることも容易くなるでしょう」
「ふむ……。気の長い話だが、貧しい遠野が生き残るには必要か。南右近よ、そなた治部少輔に付いて戸籍をまとめよ。時間はかかって良い」
「はは。畏まってござる。」
庚午年籍を参考に各戸毎の戸籍を作成していく事となったが、完成には時間が必要だし今回の侵攻には間に合わないので焦らず下地を作っていくこととする。
他に戦に向けて備蓄と訓練、敵方の想定侵攻路と敵兵数、迎え撃つ際の陣形に追撃戦時の対応などを検討していく事となった。
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