第廿一話 忍びの確保
大槌城
「今年の取れ高はどうか?」
「はっ。今年はやませもあまり吹かず、海も穏やかでありましたので食い物に困ることはありません」
大槌孫三郎は満足げに頷く。この大槌と釜石の地は平地が少なく、魚も採れるうちは良いが、ひとたび時化れば船が出せなくなり食料難となる。遠野に輪をかけて貧しい地である。
「遠野はなにやら祭りだそうだな」
「麦踏み競争などと書かれておりますな。勝者には米一俵と」
「景気の良い話だな。我らも参加するか?」
「ははは、それも良いですな」
ひとしきり笑い合い、改めて向き合う。
「さて、どうするか」
「臣従されますか?」
「すでに何度も戦をしておる。今更難しかろ」
「では、奪いに行きますか?」
孫三郎は獰猛な笑かべる。
「そうだな。次の稲刈りの頃にでも奪いに行くか」
「御意」
「む、そこにおるのは誰か?」
戸襖を開け、10歳ほどの少年が入る。
「すみませぬ父上。声が聞こえたもので」
「孫八郎、おぬしであったか。次に遠野に攻めるころにはそなたも11歳だな。少し早いがおぬしの初陣にするかの」
「ありがとうございます。ところで、戦の前に一度遠野がどういうところかこの目で見たく存じます」
孫三郎はしばし逡巡し、鷹揚に頷く。
「よかろう。狐崎玄蕃、そなたも護衛として遠野を見てまいれ」
◇
麦踏みも初回が終わりこれから本格的な冬が始まる。というわけでこれから必要になるのが薪だったり炭だったり、要は暖房だ。横田城の脇に炭窯が完成している。煙道から廃熱回収は今後検討していく予定だ。
炭窯にはなるべくみっちり薪を積んでいく。炭にする薪は城の裏手、高清水山から切り出す。木酢液とタールを回収するため、床は石畳にし、真ん中に溝を掘り、石の蓋を所々に設けている。木炭製造時にできる木酢液を入れた薬液に種籾を入れると消毒になるとかなんとか、聞くのでいずれ試してみよう。そのうちオットー式乾留炉で木炭の製造したい。でもそうすると木材があっという間に枯渇するから石炭の確保が必要だ。化石燃料は優秀だね。
近くだと和賀郡で褐炭が採れるが、和賀氏を敵に回せば稗貫氏はもちろん大崎氏のほか斯波や葛西まで出てくるかもしれんので手が出せない。いまは木炭を用いるほかは無い。
というわけで燃料の安定確保のためになんとか釜石を確保して海路がほしい。八方塞がりの出口は太平洋だ! 誰も見向きもしない土地だからだが、俺達からすれば生命線になるのだ。
「若様、お呼びにより参上いたしました」
「うむ、左近か。そなたに頼みがあってな」
「私めにできることでありましたら何なりと」
「そなたに忍びをやってもらいたいのだ」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしないでくれ。思わず笑うとこではないか。
「ところで忍びとはなんですか?」
情報収集・撹乱、破壊工作、内応、連絡などを担当することを説明すると、乱破のことかと理解したようだ。この時代に忍びという言葉はなかったのか。聖徳太子が志能便という忍者のルーツみたいなのを使っていたと思うのだがな。
「そなたは山歩きが得意なようだからな俺の目となり耳となってほしいのだ。今の我らに足りないものだらけだが、敵に我らの動きが察知されてもならぬし、敵の動きがわからんのもまずい。まずは大槌の動向と、乱破働きができそうなものを集めてほしい」
「まぁ乱破働きができそうな奴なら、旧知の奴らに声をかけてみましょ。」
言うやいなや早速大槌に行くかー!と元気に飛び出していった。あっ秋刀魚買ってきてというの忘れた。
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