第十四話 何もかも足りません
浜田邸 阿曽沼孫四郎
清之が用事で出かけているので今日は雪と二人で勉強中だ。書物を読みあさっていく。だいたい漢文で書かれているので読みづらい。
「ねぇねぇ若様、石けんは無いのですか?」
「石けん?」
「転生ものの定番でしょ?」
「それはそうだが油が無い」
「大豆が有るのですから、大豆油を使えば良いのでは?」
「大豆な……まずは喰わせなきゃいけないからだめだぞ?」
「大豆油かすから味噌も醤油も作れますよ?」
「そうなの?」
「はい。工業的に生産される醤油のいくらかは大豆油かすから作られていたはずですし、実際ゼミで作りました」
「え?つくった?なんか食品系やってたの?」
「ええと応用生物化学で発酵学を専門にやっていました」
「まじで?知識ないとか嘘じゃん。めっちゃリケジョじゃん」
「いま余っている大豆はありますか?」
「……今は無いな。収穫したらつくってみるか」
雪は発酵くわしいのか……味噌醤油はもちろん、酒、酢、あげくペニシリンまで見える?米麹は米がもったいないので小麦麹で味噌と醤油だな。
「あー。雪のおかげで衛生状態が改善できるかもしれん。ありがたやー」
「ふふん!そうでしょう?もっと褒めて良いのですよ?」
雪がどやる。中身は成人女性だが3歳児の顔なので、どやっても可愛らしい。思わずなでる。
「な、なんでなでるですか!?」
「え?かわいかったから、つい」
「へぇ若様はかわいかったから、つい、でなでるんですねー」
「そうだなー。雪がかわいかったからなぁ」
「ふ、ふん!そんな調子良いこと言っても駄目なんですからね!」
口では嫌そうに言うが全く手を払うそぶりも無いぞ。しかし中身は女子大生?にしてはウブな気がする。これは転生で精神年齢ちょっと幼くなったかもしれんな。しらんけど。
「そうだ。発酵といえば硝石丘法とか培養法ってのはわかる?」
「一応講義では……。臭そうだからやりませんよ?」
「ここでできそう?」
雪が腕組みをして考えている。
「ここだと寒すぎて難しいですね。有名な五箇山の硝石、あれは囲炉裏の側に培養槽を設けて加温したからできたことです」
「そっかー。臭そうだな」
「ほんとですよ。信じられませんよね! 若様はどうしようと思ってますの?」
「炭焼き窯の排熱で加温しようかと思ってるんだが」
「あーそれなら行けるかも?でもどうやって排熱利用するのですか?」
「オンドルみたいに煙道を作ろうか。発酵槽を過ぎたところに苗代用の部屋も作っておきたいな」
「それだと排気が漏れたら危険だし。排熱でお湯を作って加温するほうがいいんじゃない?」
「確かに直接培養槽に当てるのはよくないか」
しかし水に濡れては窯の強度が低下し、最悪崩れてしまう。水冷はロマンだがガス冷却が良いだろうか。はいそこ、ガス冷却もロマン枠だとか言ってはいけません。
問題はどうやって換気するかだが、自然対流である程度換気できないかな?いや、やっぱりオンドルみたいな形で温水製造するか。
ポンプをどうしようか……交換の効率と耐久性を考えると金属製、できればアルミ製かステンレス製の熱交換器とか、無理なので銅が大量にあればな。空気を予熱できれば燃料の節約にも為るからこれもなんとか実現したい。
したいけど燃料の薪も運ぶ手間がかかって使うのは難しいし、金属はもちろん足りないし、資本も足りなければ俺には建築工学の知識もない。大人しく資本の蓄積から進めるしかないかな。
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