第十三話 弓の改良
横田城 阿曽沼孫四郎
横田城の前庭に箕介が座る。父上に連れられ、俺も縁側に座る。
「そちが箕介か。面をあげよ」
箕介が恐る恐る顔をあげる。
「この紙はそなたが藁から作ったと聞く。真か?」
「ははっ!若様から紙を作るように命じられました故」
「そうか、孫四郎の入れ知恵か。しかし、これを作ったのはまごう事なき貴様の功よ。褒美に米を二俵与える。これからも頼む」
箕介がひれ伏す。米二俵は少ない気もするが禄に米の獲れない遠野ではこれでもかなり褒美だ。一息ついて父上がこちらを見遣る。
「此度も孫四郎、そなたが関わっておったか。そなたにも褒美をやろう。なにをのぞむ?」
「でありますれば番匠と弓師を紹介していただきたく」
「……? まあそなたのことだ何か考えがあるのだろう。自由に使うが良い」
「ありがとうございます」
箕介への話が終わり、暇になったので早速弓師と番匠に会いに行く。
◇
本当はアルミやGFRPが良いのだが、当然無いのでとりあえず普通の弓に、小さな雲形定規のような滑車と正円の滑車をつけて貰う。滑車は紐に通し固定する。
「若様、こんなものを弓につけてどうするのですか?」
「随分変わった弓になりますが……」
とりあえず試作で一張り作って貰う。矢は1本拝借する。
「まあみていろ」
弓をつがえる。サイトとピープサイトも付けて貰ったので初めてだが照準が付けやすい。カコォン!と小気味よい音をたてて3間先の厚さ1寸の板に刺さる。あいにくと中心からは大きく外れたが、威力は充分だろう。
「若様のような童がこの威力を……。もしや毘沙門天の御使いですか?」
「いや……違うぞ。この弓の力ぞ。ところで弓の部分をもっと強くできればもっと威力が出るのではないか?」
「なるほど……。少し工夫してみましょう」
「この滑車というのも面白いですな。これは他にも使えそうですな」
弓師も番匠も何か思いついたようですごい勢いでかけていく。一人取り残されたので、城の庭でひたすら弓を射続ける。100本ほど射続けるとだいぶ集簇してきたが疲れたので終了だ。
「孫四郎、弓を射っていたのか? その変わった弓は?」
「番匠と弓師に作って貰ったのです」
「貸してくれぬか?」
父上に簡易コンパウンドボウを渡す。矢を据えて、放つ。さすがは父上、的の真ん中に矢が刺さっている。
「随分軽く引ける弓にもかかわらずあの威力か。狙いも付けやすい。」
しげしげと簡易コンパウンドボウを眺める。滑車はこの時代日本には無いのか、不思議そうに触りながら、この絡繰りで弓の威力が上がるのかと言っている。
「ふむ弓師に作らせるか……。清之!この弓をそなたも射ってみろ」
清之も何本か射る。
「これなら多少の修練で使えそうですな」
「孫四郎、この弓を貰って良いか?」
「もちろんです」
「よし!これをなるべく多く作らせ、修練させておくように」
一礼し、いつの間にか集まっていた家臣達が散っていく。戦でもするのだろうか?
「父上、戦ですか?」
「ああ。そなたの作った紙はな、大いに価値のあるものなのだ。今はまだ大事になっていないが、いずれ知られれば狙われる」
この当時、京において競売にかけられた障子二枚で一貫文の値がついたとか。建具の価値もあるが、中古の障子で米一石に相当する価値だと父上から聞いた。なお、越前和紙は朝倉氏が抱えていたので他家は手が出せなかっただけであり、後ろ盾の無い遠野阿曽沼などただの鴨であるとも。
◇
コンパウンドボウがいくつかできたので何人かが練習している。その中の一人が清之に連れてこられる。
「そなた名は?」
「小友の沖館備中守卯兵衛と申します」
「このものは弓の名手ですので、若様の考案された新しい弓を練習させております」
「この弓は若様が作られたのですか!」
「うむ。どうだ?使い心地は」
「風向き次第では三十間はなれた的も貫きます。狙いやすく疲れもすくのうございます」
「実戦で使えそうか?」
「十分使えると思います」
ボルトとボールベアリングとGFRPができればもっと飛距離を伸ばせるのだろうけど。つくづく前世の技術が如何に高度かと思い知らされる。
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